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2002年5月の図書館長日誌

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  • 2002年5月29日 22時50分23秒
    インドとパキスタンの国産ミサイルマニュアル

    一触即発の状態が続くインド・パキスタン国境。
    現在、ここには両国合わせて100万人以上の陸軍兵士が動員されているだけでなく、
    多種多様なミサイルも配備されています。
    その中には、核弾頭が搭載可能なミサイルも含まれています。

    ……ですが、その名前は(当然と言うべきか)カタカナ揃い。
    我々日本人にとって馴染み深いとは到底言えないようなものばかりです。
    そこで、今回はインド・パキスタンの紛争を賑わせている(?)ミサイルに着目し、
    名前の由来や性能など「いつもとはちょっと変わった観点」から眺めてみたいと思います。


    パキスタンが作ったミサイル

    ●中距離弾道ミサイル「シャヒーン」(射程750/2500km)
    核兵器搭載可能なミサイルで可動式。開発を行っているのはパキスタンの原子力エネルギー委員会。
    短距離ミサイルの「シャヒーン1」と中距離ミサイルの「シャヒーン2」という2種類が存在。
    中華人民共和国が技術開発に関与している。
    「シャヒーン」という単語は「鷲」という意味があるらしい。

    ●中距離弾道ミサイル「ガウリ」(射程2000km→3000km)
    複数のバージョンが存在するミサイルで核兵器が搭載可能。カフタ研究所が開発。
    これまでの射程は2000km前後だったが、2002年5月時点における最新式「ガウリ3」では射程が3000km前後に伸び、
    インド国内のほぼ全域が射程圏内に含まれることになった。
    北朝鮮が技術開発に関与しているとのうわさがまことしやかに流れている。
    こちらには「光輝な女神」の意味があるらしい。

    ●短距離弾道ミサイル「アブダリ」(射程180km)
    開発名は「ハトリ2」。
    1747年に独立を宣言したアフガニスタンの建国者(パシトゥン人)の名前が「アマド・アブダリ」だったのだが、
    彼からこのミサイルの名前を取ったのかどうかは不明。
    他国の地名にも使われているところから、アラビア語圏/イスラム教圏ではさほど珍しくないのだろうか。

    ●短距離弾道ミサイル「ガズナビ」(射程290km)
    別名「ハトフ(ハトリ?)3」。核弾頭が搭載可能かは不明。語源も不明。
    10世紀にアフガニスタンを支配していた「ガズナ朝」と関連があるかどうか……うーん……

    ●短距離ミサイル「ハイダー1」(射程300km)
    詳細は良く分からない。
    「ハイダー」で検索をかけても、出てくるのはオーストリアの政治家ばかり……。


    インドが作ったミサイル

    ●短距離ミサイル「プリトビ」
    (射程250km/350km)
    インド軍の地対地ミサイル。核兵器の搭載可否は不明。1997年から実戦配置されている。
    複数のタイプが存在し、最新版は「プリトビ3」。
    意味は「地球」。

    ●中距離弾道ミサイル「アグニ2」(射程2000km以上)
    核兵器搭載可能なミサイル。1999年4月11日に発射実験が行われている。もともとは対中国用に開発されていた。
    意味は「炎」。バラモン教、ヒンドゥー教における火の神でもある。

    ※ちなみに、インド軍のアグニミサイルの主な基地はアッサム州に設置されています。
    ここからだと、中国もパキスタンも「アグニ2」で狙うことが可能とされています。


    ●地対空ミサイル「トリシュル」(射程50km)
    2002年1月30日に実験を行った国産の地対空ミサイル。最高15キロの弾頭が装着可能。
    意味は「銛(もり)」だそうな。


    「戦術核が国境に配備された」という笑えないニュースも飛び出している両国の情勢。
    これらのミサイルが実際に使われないことを祈るばかりです。

  • 2002年5月23日 22時46分47秒
    一触即発@カシミール

    中国・瀋陽の亡命者連行事件は、当事者となっていた亡命者5人が無事に韓国に着いたことにより、一件落着となりました。
    真相は闇の中のまま、亡命希望者5人は自由の身……というように、結果的に一番傷が小さい解決策。
    これはこれで実におめでたい話。
    と、同時に中国の立ち振る舞いが実に巧みだったことの証左にもなりました。

    で、事件に関する日本の対応をあれこれ考えないといけないのですが、考えれば考えるほど頭が痛くなります。
    それを具体的に論じようとすると愚痴の連発にしかならないのが目に見えていますので何も書きません。
    総領事館や駐北京大使館の関係者の責任問題も当然出てくるでしょう(現に元首相が大使の更迭を要求していますし)。
    解決すべき課題はいくつもあるのですが、まずは根本的な問題と言うことで、
    難民に対してあまりに厳し過ぎる日本の入国管理制度を変えてみる必要がありそうです。
    小泉さんはあまり気乗りしていないようですが……。
    それと、外務省だけではなく日本の官僚全体に対して、
    「国益」が一体何なのかを、ゼロからもう1回教え直す必要がありそうです。
    駐瀋陽領事館と駐北京大使館の職員が見せた行動の多くは、結果論的な側面があるとはいえ
    日本の国民の間に不安感を掻き立ててしまいましたし、日本の国益にも少なからぬ害を為しています。
    「外国に出掛けても自国の外務省・大使館が信用できない」という陰口が叩かれるのは、
    国としてあるまじきこと──そして恥ずべきことであることを再認識すべきです。


    この他に今日の夕方に流れた日本のニュースですが、どこかの国会議員の事務所に家宅捜索が行われたこととか、
    とあるアフリカのサッカーチームが日本に来るのに悪戦苦闘している話とかがメインとなっていました。
    ですが、その裏では、「核戦争の数歩手前」という結構困った状態に陥っている地域もあります。

    その「核戦争の数歩手前」に陥っているのは、カシミール地方の領有権を争うインドとパキスタン。
    昨年末、インドの国会にパキスタンとの関係が疑われている(パキスタン側はこれを否定)テロリストが襲撃を行って以来、
    ただでさえギクシャクしていた両国の関係は急激に悪化していきました。
    インドの大統領は2月に「パキスタンがインド敵視とテロリズムの越境支持をやめ、
    テロ事件の容疑者20人の引き渡しを行わなければ、インドは引き続き国境に兵力を駐留させていく」と明言し、
    パキスタンとの対話を拒否する姿勢を貫いていました。
    その後はしばらく睨み合いが続くだけだったのですが、
    4月24日に、インド政府軍と分離独立派の武装ゲリラとの間で武力衝突が発生し、民間人を含む多くの死者が出た辺りから、
    両国の緊張関係はますます危険な方向へと転び始めました。
    そして、追い打ちを掛けるように続発する印パ両国を巡る危険な事件の数々。
    日本に伝わっている主なものだけでも取り上げますが──

    ●5月8日、カラチ市内で爆発物を積載した自動車による自爆テロ事件が発生、
    フランス人軍事技術者など少なくとも14人が死亡。
    捜査を指揮するパキスタンのシンド州警察本部長は「アルカイダ、
    もしくはインドが犯人である疑いがある」という趣旨の発言を行った。
    これに対しインド外務省は「いつものことだが、こうした申し立てはパキスタンの作り話だ」とコメント。
    ●5月14日、インド北部カシミール地方でインド軍施設への襲撃事件が発生、34人が死亡。
    ●5月21日、カシミールのインド支配地域内で、インド寄りだったカシミール人の穏健派指導者が暗殺された。
    両国は、事件について非難を応酬している。
    ●5月21日、インドのバジパイ首相によるジャム・カシミール州訪問に合わせて新たな武力衝突が発生。
    死者は少なくとも9人。同種の事件は5月下半期に入ってからは頻発しており、両国の交戦はもはや日常化。

    ──とまあ、こんな感じで戦いの火の手は確実に広がりつつあります。
    こんな感じの比較的小規模な武力衝突でしたら、何回かインドとパキスタンの間で発生していました。
    ですが、今回の衝突がいつもと違うのは、指導者達が「マジ」になっている点でしょうか。

    インドのバジパイ首相曰く──
    「勝利のために頑張ろう。犠牲を覚悟しなくてはならないが、われわれの目的は、勝利であるはずだ。
    決定的な戦いの時が訪れた」
    (ロイターの記事による)


    パキスタン外務省の報道官曰く──
    「インド指導者はこのような戦争言論を停止し、国内問題の解決に重点を移し、
    隣国と各種の紛争を和平的に解決すべきだ」
    「パキスタンは自国を保護する能力を持っており、インドが押し付ける戦争に反対する。
    インドが発動するいかなる突発行動は全力で抵抗される」
    (新華社の記事による)


    こういうのを「丁々発止」と言うんでしたっけ?
    いずれにせよ、両国とも賭けのテーブルから下りる気は無いようです。

    こんな不穏な空気を察したのか、イギリスはパキスタンから外交官の一部撤収を開始しています
    (イギリスはこの件に関して新華社に対し、
    「インド・パキスタン間に勃発する可能性がある戦争に直接関係がない」と言ってますが、そんなのは信じられません)し、
    ロンドン自由金市場では5月22日に1オンス=318.05ドルという高値がつけられています。

    このカシミール地方で続いている紛争なんですが、1947年のインド独立が全ての根源にあります。
    植民地時代のインドには地方を割拠する「藩王国」という存在がありまして、
    独立時に各藩王が「インドとパキスタンのどっちにつくか」というのを決めることになっていました。
    カシミール藩王国(現在のカシミール)は住民の7割以上がイスラム教徒という地域でしたので、
    客観的に見ればパキスタンへの帰属が理に適っていたのですが、ヒンドゥー教徒だった藩王は強引にインドへの帰属を宣言。
    それに腹を立てたカシミールの住民がパキスタン政府に「どうにかしてくれ」と頼みこみ、
    パキスタンがカシミールへの派兵を行ったのが原因で、インドとパキスタンの戦争が始まったのです。
    その後、両国の戦いは1965年と1971年にも発生。
    現在の両国「国境」は、1972年に締結された停戦ラインに沿って「敷かれた」ものとなっています。
    その後はしばらく比較的平穏な(?)時代が続いたのですが、
    1980年末に入ると、ジャム・カシミール州(インド領カシミール)で、
    インドからの分離を目指す住民運動が発生。
    インドはこの住民運動の背後にパキスタンが控えていると睨んでおり、ここで再び不穏な空気が広がり始めました。
    特に最近では、両国がそれぞれ相手国の大半を射程圏内に収めることができるミサイル(共に核兵器搭載可能)を開発したり、
    両国とも核分裂爆弾の開発に成功したりするなど軍拡競争が激化していました。
    核兵器開発成功直後には、「これで『恐怖の均衡』が成立するから、第4次印パ紛争は回避できる」との楽観論もありましたが、
    その楽観論は見事に打ち砕かれてしまったようです。

    両国軍部は共に、「弾頭の数が少ないから核兵器を戦術的に使える」とでも思い込んでいるのかなあ……。


    さすがに、バジパイ首相もムシャラフ大統領も、
    核の発射ボタンに安易に手を乗せるほどおつむの弱い人間ではないと思いますが、
    国境に数十万人単位の陸軍が結集していると言われる現状がまずいことは紛れも無い事実。
    イギリスとアメリカを中心に緊張緩和の糸口を見つけるべく外交努力も展開され始めているようですので、
    今はそれを見守るしかなさそうです。

    ……日本に何かできるかって?
    不法侵入事件のダメージを食らっている現状で何か有益なことを為すことができるとはとても思えません。

    ちなみに、現在外務省が出している両国の安全情報の地図はこちら(12)。


    それにしても、核戦争の数歩手前という危険な状態になりかかっている地域があるのにもかかわらず、
    日本国内のテレビでは、このニュースはあまり流されていません。
    いつものように国際情勢には疎いという日本のメディアの弱点を曝け出しているわけです。
    インターネットや新聞で国際ニュースを積極的に集めようとしている人間か
    自宅や職場でBBCをつけっぱなしにしている方しか気付いていないんじゃないかと思ってしまうくらい。
    メディア──特に民放テレビ各局の海外ニュース軽視の風潮は改められるべきではないでしょうか……それもできる限り早く。

  • 2002年5月18日 16時29分30秒
    風邪気味なので新しいことは書けませんでした(汗)

    5月12日付日記で書いた選択議定書批准に関するコラムですけど、
    残念ながらと言うべきか予想通りと言うべきか、レスがついたのはこちらのお二人だけ(12)でした。
    私が最近出入りしている18禁メールゲームのチャットでは、かれこれ1時間ほどこの問題で論議されていたのとは大違い。
    それだけ、危機感(というよりも緊急性に関する認識)に差があるのかもしれません。

    まあ、エロゲーもエロ漫画も、単純所持程度では捕まらないだろうというのは確か
    (選択議定書も単純所持については特別の規定を設けていない模様)なんですが、販売目的の所持は禁止されるわけですから、
    最悪の解釈を採れば「新作の発表は一切不可能になる」だけでなく、
    「中古ゲーム市場も閉鎖」ということになってしまうわけです。
    これがどれほどまずいことか……わざわざ言うまでも無いでしょう。

    『東京みゅうみゅう』を規制すべきかどうかについては、当の漫画(アニメ)を見ていないのでノーコメント(汗)。

    中国兵の不法侵入事件については、事態がこじれている上に事実関係が曖昧過ぎるので、深くは突っ込まないことにします。
    考えていることとか突っ込みたいこととかは色々あるんですよ。
    「外務省のチャイナスクール(中国の専門家が集まった外務省内の一種の派閥で、
    自民党橋本派とパイプが太いと言われている)はこれでおしまいになるっぽい」とか、
    「副領事が6人もいるなんて初めて知った」とか
    「英語が読めないなら他の外交官に読んでもらえば良かったのに」とか……。

    それにしても、外務大臣が哀れに見えてくるなあ。今回の一件、大臣には殆ど手落ちが無いというし……。

    この他に、今日気になったニュースはこんなところ。

    アフガン展開の英兵、正体不明の発病(ロイター)
    ニュースによると、アフガニスタンで展開するイギリス軍兵士40人が原因不明の腸炎らしき病気で苦しんでいるとのこと。
    風土病の一種だと思いますが、大事に至らなければ良いのですが……。

    雪印食品、元専務と元常務支店長を逮捕(読売新聞)
    容疑は詐欺。これで逮捕者の数はトータル7人。
    組織は解散されても、事件の後始末はまだまだ終わらない模様。


    追記:
    日本の官僚は確かに努力しています。いい意味でも悪い意味でも。
    ただ、自制しているのかどうかについてはかなり怪しいかと……。

  • 2002年5月13日 23時58分17秒
    前日日誌の追記

    誤解が生じているのかもしれませんので2つ追記。

    (1)実写系児童ポルノや児童売買春の規制は諸手を上げて歓迎します。思う存分やっちゃって下さい。

    (2)私の守備範囲には「ガキ」「プニ」「ロリ」は含まれていません。
    なので、実は規制が加わったところで実害はあまり大きくなかったりします(爆)
    それでも規制強化に対して反対の立場を取っているのは、一種の実用主義──
    「法律を作る以上は、実効性と人権問題との妥当性・バランスが必要」と考えているからです。
    今回の問題となっている児童ポルノ禁止法改正の場合、実効性・人権とのバランスの両面において
    不完全であるという印象が拭い切れないのです(特に実効性については甚だ疑問)。

    ただし、現在の18禁ゲーム業界やその周辺の雰囲気、
    更には18歳未満である高校生が18禁ゲームに手軽に手を出している現状が好ましくないこともまた事実。
    乱暴な言い草になりますが、「ガキは素直に全年齢ゲームで我慢しろ」というのが本音です。
    安易に18禁ゲームを家庭用ゲーム機に移植することも、若干再考の余地があると思います。

    人権や既得権益を守る為には、自制や不断の努力が必要なんじゃないでしょうか。
    その当然のことに、多くの人が気付いていれば良いのですが……。

  • 2002年5月12日 21時11分50秒(修正2回)
    Convention on the Right of the Child

    今回もまた国際法の条約名がタイトルに使われることになりました。
    で、上記条約の日本語訳は『児童の権利に関する条約』。
    この条約そのものは、児童の人権を強化する規約(有害労働からの保護、不法移送の禁止など)が多く盛り込まれており、
    特段大きな問題を引き起こさないように感じられます。
    個人的には、第37条(a)の一部(18歳未満の者に対する死刑の禁止)に対して異論が聞こえてきそうですが、それはひとまず無視するとして(ぉ

    しかし、この条約が1994年5月22日に日本で発効した当時から、
    以下の第34条は頭の痛い問題として日本にのしかかっていました。

    第34条(性的搾取・性的虐待からの保護)
    締約国は、あらゆる形態の性的搾取及び性的虐待から児童を保護することを約束する。
    このため、締約国は、特に、次のことを防止するためのすべての適当な国内、二国間及び多数国間の措置をとる。
    (a) 不法な性的な行為を行うことを児童に対して勧誘し又は強制すること。
    (b) 売春又は他の不法な性的な義務において児童を搾取的に使用すること。
    (c) わいせつな演技及び物において児童を搾取的に使用すること。

    1994年当時、日本では多数の児童ポルノ(実写)が出回っており、海外から強い非難を浴びていました。
    いわゆる18禁の雑誌・書籍・ビデオ等を取り扱う店に1回でも入ったことのある方なら多分御存知でしょうが、
    当時は、誰がどう考えてもこいつは15歳未満としか思えない女性(日本人)のヌード写真だけを集めた写真集が公然と売られ、
    「海外からの直輸入」と称して、外国人児童を取り扱ったポルノビデオが日本国内で販売されていたのです。
    私自身の「ストライクゾーン」に「子供」は含まれていなかったので(オヒ)、
    中身がどの程度のものだったのかを現在の時点から遡って知る術は全くありません。
    他にも、国内では禁止されている児童に対する性的行為(特に児童に対する買春行為)を求め、
    海外へ「売春(買春?)ツアー」と称して出掛けて行く日本人の団体観光客が存在していることも知られています。
    日本という国は「児童ポルノ最大の消費国」として世界に悪名を轟かせていた時期があったわけです。

    現在では国内法が整備され、1999年制定の『子ども買春・ポルノ処罰法』によって、
    実写系のロリコン物の各種ポルノ」の製造・販売等は禁止されています。
    これはこれで非常に好ましい話であります。
    しかし、児童ポルノを禁止する為の国内法を整備する過程で、こんな問題が持ち上がったのです。

    実写ではない児童ポルノの取扱はどうするのか?」

    子ども買春・ポルノ処罰法でターゲットとなったのは実写系児童ポルノのビデオ・写真集がメインであり、
    アニメ・漫画・インターネット・ゲームは規制対象外となっていました。
    ですが、この当時から、国会内では「より包括的な児童ポルノ規制を考えてはどうか」という意見が存在し、
    表現の自由との関連性を巡りちょっとした論議が巻き起こっていました。
    ちなみに、当時から児童ポルノ規制推進論者として有名だった方の1人が今の法務大臣閣下でもあり、
    小泉内閣組閣当時から、インターネット上では「これで児童ポルノ規制推進が更に進むのではないか」と言われていました。

    で、実際に、児童ポルノ規制が一段と進むことになりそうです。
    5月10日、日本政府は子ども特別総会が行われている国連本部で2種類ある『子どもの権利条約の選択議定書』に署名。
    このうちの1つが『子ども売買、子ども買春及び児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書』だったのです。
    詳細な条文は日本ユニセフ内のサイトに公開されていますので、そちらを参照してもらいたいのですが、
    特に問題になりそうなのが次の部分です。

    第2条(定義)
     この議定書の適用上、次の用語は次のことを意味する。
      (中略)
    子どもポルノグラフィー
    (c)子どもポルノグラフィーとは、
    実際のまたはそのように装ったあからさまな性的活動に従事する子どもを
    いかなる手段によるかは問わず描いたあらゆる表現、
    または子どもの性的部位を描いたあらゆる表現であって、
    その主たる特徴が性的な目的による描写であるものを意味する。

    第3条(立法上・行政上の措置)
    1. 各締約国は、最低限、次の行為および活動が、このような犯罪が国内でもしくは国境を越えて
    または個人的にもしくは組織的に行なわれるかを問わず、自国の刑法において全面的に対象とされることを確保する。
      (中略)
    (c) 第2条(c)で定義された子どもポルノグラフィーを
    製造し、流通させ、配布し、輸入し、輸出し、提供し、販売し、または上記の目的で所持すること。

    これを字面通りに解釈しますと、18禁ゲームや18禁アニメに登場するガキ〜高校生の18禁シーンは
    ほぼ全て「子どもポルノグラフィー」に含まれる
    ことになります。
    これらの作品に登場する18禁シーンが「子どもの性的部位を描いたあらゆる表現であって、
    その主たる特徴が性的な目的による描写であるもの」
    にことごとく引っ掛かりますから、当然ですよね?

    モザイクや太い修正線を入れたところで、「あらゆる表現」という文言を回避することはできません。
    綺羅さんの話によると、英語の正文では“any representation”と書かれいるそうでして、
    私の英語力が確かならば、ここを“all representation”と置き換えても意味に大した差は現れなかったはずです。

    『はじめてのおるすばん』(18禁)のように、設定面で「外見はガキだけど年齢は18歳以上」と強弁することも無意味です。
    児童ポルノ規制の実効性を確保する為には、設定ではなくあくまでも「外見」にこだわらないといけません。

    また、純愛系18禁ゲームにおける18禁シーン論争でよく耳にする「18禁シーンが登場することは事実だが、
    その主目的は『性的な描写』ではない」
    と強弁することも難しいでしょう。
    ゲーム全体のテーマ性と、一部分だけ登場する18禁シーンの内容を同列に扱うことは不可能ですし。

    「成人女性がガキのコスプレした上で性的行為に及ぶこと」(笑)は多分合法になると思います。
    「性的行為の主体は成人女性だから『児童』には該当しない」と考えることもできますし、
    条約の法的趣旨から考えれば、そこまで規制を伸ばす必要性は高くありません。

    この選択議定書には法的拘束力が存在します。
    つまり、これに調印した以上、日本政府はこの条文の趣旨に則った法律・政令などを作らなければならないわけです。
    規制の主なターゲットとなるのはインターネット上の実写系児童ポルノや、
    実在する児童の映像を加工して作ったCGのポルノであると私は思っていますが、
    法的には18禁ゲーム・18禁アニメ・18禁同人誌・オリジナルの18禁CGサイトも児童ポルノ規制の対象となります。
    当然、同人作家の皆さんや18禁ゲーム愛好家の方がこのニュースを面白いと感じることは無く、
    議定書批准(及び後続する国内法整備)に反対する声も上がりつつあります。


    ……で、ここからが個人的な意見。
    はっきり言わせてもらえば、現状において、アニメやゲームにまで法的規制を掛ける意味はあまり高くないと思います。

    非実写系の児童ポルノを規制するとなると、その目的は「児童の保護」ではなく「公序良俗の維持」になるわけなんですが、
    製造・販売そのものを違法化したとしても、どれだけ効果があるのかは疑問なんですよ。
    アングラ化することはほぼ確定ですし、妄想の世界への捌け口が消滅した結果、
    実社会における児童に対する性的虐待が増加してしまう危険性もあります。これでは本末転倒。

    また、今のアメリカ合衆国では、アニメなどの非実写系児童ポルノや「子供がセックスしているように見えるだけ」などの
    いわゆる「バーチャルな」児童ポルノが事実上合法化されている2002年4月16日の連邦最高裁判決に拠る)ため、
    日本国内での規制が一層強まった場合には、18禁ゲームや18禁アニメが
    アメリカ国内のサーバからインターネット経由で提供されるようになる可能性があります。
    (インターネット上で18禁イラストを公開している同人作家の場合にも、アメリカのサーバにデータを移転すれば、
    日本における法規制の強化から逃れることも不可能ではなくなるわけなんですが、確証はありません)
    こうなってしまったら、日本がこの選択議定書に基いて強力な法的規制を課したところで意味が無くなるんですよ。
    この選択議定書を批准・署名していない国や、バーチャルな児童ポルノを容認している国に、
    バーチャルな児童ポルノの情報発信元がシフトするだけの結末しかもたらしそうにありませんからね。
    その意味では、この児童ポルノを巡る問題というのは、
    インターネット時代における国際法の実効性を調べる格好のケーススタディになるとも言えます。

    公序良俗のことを考えるのならば、18禁ゲームなど児童ポルノそのものの規制よりも、
    規制対象となる品物の購入制限の強化(高校生が18禁ゲームをクリアしたことを自慢げに掲示板に書くなんて言語道断)や
    広告に対する規制の強化を優先して実施するのが筋というものだと思うんですが……。


    「効果が薄い」どころか「逆効果になる危険性の高い」法律・条約を認めるほど、
    私は心の広い人間ではありません。そんなわけで、
    この選択議定書を巡る動向については、重大な懸念を抱きつつ見守っていきたいと思います。

    しかし、自分達の利益に重大な問題が発生する危険性があるのにも拘らず、
    私の周囲の反応が鈍いことが非常に気になります。
    はっきり言ってしまえば、この選択議定書によって真っ先にアウトになるのは、『ONE』や『Kanon』、
    それに前出の『はじめてのおるすばん』など、昨今の18禁ゲームの世界では多いとされる
    「プニ系のキャラ」や「外見年齢が低いキャラ」が多数登場するゲームなんです。
    「最近のオタク達は社会の動向に関心が薄い」と言いますけど、
    自分達の身に関わる問題に対する反応が鈍いというのは正直言って感心できるものではありません。
    実際は問題意識を抱いていて、単にネット上ではコメントをしていないだけなのか、
    はたまた法的規制が加えられても良いと考えているのかも知れません。それならば問題は無いのですが……。



    追記1:
    もう一方の選択議定書『武力紛争への子どもの関与に関する子どもの権利条約の選択議定書』については、
    全然論議が起こっておりません(爆)
    中身が理性的で真っ当で、日本では差し迫った問題にならない
    (自衛官への就職条件は18歳以上だったのでは?)せいなのかもしれません。

    追記2:
    目があまりに大き過ぎる「プニ」「ロリ」の18禁CGについては、
    「こいつらは人間外生物だから規制外である」と強弁できるのではないかと思ったけど……やっぱり無理かなあ……(ぉ

  • 2002年5月9日 18時42分38秒
    Vienna Convention on Consular Relation

    日本では『領事関係に関するウィーン条約』と訳されている条約なんですが、
    この条約にはこんな条文があります。

    第31条(領事機関の公館の不可侵) 1 領事機関の公館は、この条の定める限度において不可侵とする。
    2 接受国の当局は、領事機関の長若しくはその指名した者
    又は派遣国の外交施設団の長の同意がある場合を除くほか、
    領事機関の公館で専ら領事機関の活動のために使用される部分に立ち入ってはならない。
    ただし、火災その他迅速な対応を必要とする災害の場合には、領事機関の長の同意があったものとみなす。

    5月8日、中国遼寧省瀋陽市の日本総領事館で、
    亡命を求め査証(ビザ)申請窓口の待合室まで入った北朝鮮の住民2人を追って、
    中国の武装警察官が領事館の敷地内に侵入した──という事件がありました。
    中華人民共和国は前出の領事関係に関するウィーン条約を批准しており(中国語が条約の正文の1つになっています)、
    この条約を常識的に解釈すれば、武装警察官の侵入は中国による日本の治外法権の侵害になってしまいます。
    (亡命申請者を追い掛けることが火災や災害に該当するとは到底思えませんし)
    そんなわけで、日本の駐中国公使が中国外務省を訪れ「ウィーン条約に違反する」と抗議するような騒ぎになっています。

    事態の進展は今後の外交協議次第ってところになるのでしょうが、関連するニュースを聞いていてふと気になったことが2つ。

    (1)
    日本の政府筋からは「全く予想していなかった」といったコメントが聞こえてくるのですが、
    今回の事件の一部始終は、AP通信など外国メディアのカメラマンのレンズにしっかりと捉えられているんです。
    その写真は朝日新聞や産経新聞の上でも公開されていたと記憶しています。
    となると、写真を取った人々には事前に亡命の情報が伝えられていたとしか考えられなくなります。
    そして、「本当に現地総領事館は亡命の情報を知らなかったのか?」との疑念が出てくる可能性すら有り得ます。
    現に、某テレビ局の昼のワイドショーでは、
    「何も知らなかった」とする政府のコメントを疑問視するコメンテーターの姿がありました。
    この他にも、「総領事館の対応は不十分」「日本政府のリアクションは手ぬるい」など、
    外務省をバッシングする声が再び上がりつつあります。

    (2)
    中国の駐日大使は「総領事館への身分不明の人の突入を防ぐ安全確保の措置であり、
    ウィーン条約を順守している」と話していますし、同条約の第40条には

    第40条(領事官の保護) 接受国は、相応の敬意をもって領事館を待遇するとともに、
    領事館の身体、自由または尊厳に対するいかなる侵害も防止するためすべての適切な処置をとる。

    と書かれています。
    しかし、写真を見る限りでは、亡命を申請しようとしていた北朝鮮の人達って丸腰としか思えませんし、
    北朝鮮の難民希望者が「天災」になるとは誰がどう考えても有り得ない話。
    こうやって考えますと、中国側の言い分は全く理が通らないように見えるのですが、実は必ずしもそうは言い切れません。
    最初に紹介した領事関係に関するウィーン条約の第31条第2項には、
    接受国の官吏の立入禁止区域が規定されているのですが、
    ここに次のような文言が盛り込まれているんです。

    領事機関の公館で専ら領事機関の活動のために使用される部分に立ち入ってはならない

    中国側が「査証発給の待合室は『領事機関の活動のために使用される部分』には含まれない」と
    強弁する可能性があるわけでして、ここでまたややこしいことになりそうな気がするんです。
    気のせいで済めば良いのですが……。

    ちなみに、事件が発生したのが北京の大使館だった場合には、

    第22条(公館の不可侵) 1 使節団の公館は、不可侵とする。
    接受国の官吏は、使節団の長が同意した場合を除くほか、公館に立ち入ることができない。
    (外交関係に関するウィーン条約)

    というように、別の条約が適用されることになります。
    この場合は「敷地内は全て立ち入り禁止」になるので、話はもう少し簡単になります。

    以上のように、一見すると外交上の面子だけが争点となっている今回の騒ぎですが、
    中国側に拘束されている5人の人命が懸かっていることも念頭に置いておくべきでしょう。
    今回捕まった5人は、かつて韓国への亡命を成功させた人達の親類なんだそうです。
    中国側に拘束された5人はこのままですと、「不法入国者」として北朝鮮に強制送還されるわけなんですが、
    強制送還された本国でどういう運命が彼らを待ち受けているのか、
    これまでの北朝鮮の歴史や内部事情を考慮すれば、想像するのは決して難しくないと思います。


    それにしても、この間の小泉首相の靖国神社参詣といい今回の件といい、
    「国交正常化30周年」という記念すべき年にお互い様何やってるんだか……。

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