発端

エアード・ブルーマスター

あたりが夕方から夜に変わる頃、クレアのある森に男は現れた。
その姿はボロボロで、先ほどまで何かと戦っていたことが予想される。
男は少し歩いたかと思うと、その場に膝をついた。
「チッ…この200年で殺すことは…慣れたはずなのにな……相手が特別だからか…?」
そうつぶやき、しばらくの間何かに堪えるようにうずくまっていた。

男が物音に気づいて頭を上げたとき、十数人の男達がまわりにいた。
一目見ただけで野盗の類だというのがわかる。
「おい、兄ちゃん。命が惜しかったら金目の物を出すんだな」
野盗の一人が決まりの脅し文句を男に言い放つが、男はじっと見返すのみで動く様子はない。
その目は野盗を見ておらず、何か別の物を見ているようだった。
「おい、てめぇぶっ殺されてえのか!? とっとと金目の物を出せってんだよ!」
野盗が怒鳴り散らした数秒後、男はゆっくりと立ち上がった。
「へっ、やっと動きやがったか…とっとと……」
野盗が言葉を続けようとした瞬間、その首が宙を舞った。
立ち上がった男の手にはいつのまにか蒼く光る剣が握られている。
その剣が一瞬のうちに野盗の首をはねたのだ。
「…いいところに……来てくれたぜ……」
男はそう言った後、武器を構える残りの野盗達を見た。
「…あいつを斬った時の感触が…まだ残ってるんだ……お前らを斬って…その感触を忘れさせてもらうぜ……」
男は狂気を含んだ瞳を光らせ、野盗達に襲いかかった。
……そこで男の意識はとぎれた。



「……あら、目が覚めたみたいですね」
男が目覚めてはじめに聞いたのは、女の声だった。
「驚きましたよ、ホント。森に薬草を採りに行ってみたら、野盗の死体と行き倒れのあなたがいたんですから」
「……ここは? それに、お前は……?」
男は身を起こし、声の主がいるだろう方向へ向かって聞いた。
「ここは私の家。あなたは私に拾われて、三日三晩寝てたんですよ」
「三日も……?」
そこではじめて、男は声の主を見た。
「ああ…まだ名乗ってませんでしたね。私はファイン・ウェザー。しがない薬師ですよ。あなたは…?」
「…エアード……エアード・ブルーマスターだ……」

その後、治療をしながらファインは様々なことをエアードに話した。
エアードがもうすぐで死ぬという状態の所を、自分が拾ったこと。
あの野盗達はそれなりに名の通った奴らだったということ。
そして、もうすぐ戦争が起こるだろうという事…

「ところでエアードさん…あの野盗達はあなたが一人でやったんですか?」
「……ああ」
それを聞いた後、ファインは
「……エアードさんは、私に助けられましたね?」
「まぁな…」
「ということは、当然あなたは私に恩返しをしないといけませんよね?」
「…つまり…何をして欲しいんだ………?」
「話が早いですねぇ、そう言う人は好きですよ、私」
そう言うと、ファインは笑顔で話し始めた。


それから一週間後、エアードはクレアムーン軍に入ることとなった…
「一応命を救われたからな……借りは、返さないとな……」

(2002.09.15)


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