シチルの釣り人

蒼主 空也

クレアと帝国の激戦区―シチル。
その戦場から遠くないシチル川のほとり…そこで呑気に釣りをしている男がいた。
「悪かったな…釣りをしてて。俺の勝手だろうが(−−」
ぼやきつつも、男―蒼主空也は釣りを続ける。

発端は朝―
「あの…エアードさん、頼みたいことがあるんですけど…」
「ん?」
ちょうど刀の手入れをしているときに、春華を抱いた紗耶に声をかけられた。
空也が手入れしていたのは、スカイハイがなくなった後に紗耶から渡された刀だ。
なんでも荒神を倒した場所で見つかった物らしい。
結構な刀なので、空也はこれをスカイハイの代わりに使うことにしたようだ。
「で…どうかしたのか?」
刀の手入れをやめ、紗耶の方へと向く。
「はい、お醤油が切れたので買ってきて欲しいのですが…」
「………わかった、醤油だな?」
「あと、お味噌もお願いします」
「…………………………」
蒼主空也、しっかり尻に敷かれていた…

空也は「どうせ出かけるなら…」という理由で、すぐには買い物に行かずシチルで釣りをすることにした。
そして、現在に至る。
「それにしても…まだ戦闘中だな……」
空也は視線を川から地上へ上げ、さらに方向を変える。
そこでは帝国軍とクレアムーン軍が戦闘を繰り広げている。
空也―エアード自身も、以前はあそこで軍を率いて戦っていた。
今はもう、ずいぶん昔のことのように感じられる。
「…あいつはちょうど、あそこにいるのか」
戦場の方を見ながら、ある人物を思い出す。
このシチルの地を因縁の地とし、自分と戦った相手。
深く関わりを持ったせいか、放っておけない存在。
「こういうときはどっちを応援すればいいんだろうな…あいつか、それとも……2号か」
意味不明の単語を含んだつぶやきをし、少し悩んだ表情になる。

「まぁ…どうでもいいか」
日が傾いてきたのを確認し、その場を離れる。
「今の俺には、もっと大切なことがあるしな」
真剣な顔をして帰路につき始めた。

その途中、小さな声でつぶやく。
「………味噌と醤油、晩飯までにちゃんと買って帰らないとな…」

(2002.10.26)


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