ツバメの旅立ち

アリサ・ハウンド・フォックスバット

帝国第9部隊「Schwalbe」は、一度戦線を後退。部隊を建て直しクレアへと戻っていた。
だが、アリサは不安だった・・・これ以上、人を殺せるであろうか?と・・・
戦争終結を焦り、突出してしまった「Schwalbe」はクレア軍の総攻撃にあい、
部隊は崩壊寸前まで追い込まれた。
そのとき、アリサは本当に恐怖を覚えた。目の前で死んでいく兵士の血に目をそむけ
自分を見失い、精神が一時的に混乱してしまう。
なんとか副官のゴードンが部隊を後退させるも、アリサは味方後方に抜けるまで、
目を大きく開き、ぶるぶる体を震わせ、恐怖で言葉が一切出なかった。
だからこそアリサは心配だった。また、兵士の血を見て自分を見失うのではないかと。

そして・・・再び、血で血を洗う戦いへと・・・
「Schwalbe」は、作戦どおりクレア軍「紫電隊」へと攻撃をかける。
「全騎、攻撃態勢っ!・・・・・・・・・い、行くよっ!」
不安で言葉が震えそうになる。だが、指揮官が震えていては兵士の士気は上がらない。
そして、「Schwalbe」は「紫電隊」と衝突。ふたたび双方の兵士が血を流し倒れていく。
「これは戦争・・・これは戦争・・・仕方ない・・・仕方ない・・・仕方ないんだよ・・・」
アリサは、必死にそう思った。そう思わないと、アリサは再び自分を見失うだろう。
今まで、危険だとわかりながら「仕方ない」の暗示で・・・人を殺してきたのだから。
「仕方ないんだよっ・・・戦争だもんっ・・・・・・仕方・・・ないわけない・・・」
初めてだった。いつもの暗示を、アリサは自分で否定し、叫んだ。
「仕方ないわけ・・・あるかーーーーっ!」
その叫び声に副官のゴードンは驚いていたが、アリサはすぐに畳み掛けるように言う。
「ゴードン、現在の戦況はっ?」
「え、あ、味方の損害は約400騎、敵の損害は約500人・・・」
いつもと違う剣幕に、ゴードンは戦況をつぶやくように語る。
「私は・・・もう、これ以上耐えられないよっ! 全騎、後退、後退っ!」
「な・・・今、こちらが押しています! 後退してどうしますかっ」
「いいから、後退! 普段はあなたのということ聞いてる。でも、今回は譲れないよっ」
「し、しかし・・・」
「全騎、後退!敵の様子を見るっ! 攻撃をかけてきたら・・・迎撃せよっ!」
アリサは、喉を酷使して必死に叫ぶ。
「今、血を流して戦っているクレア軍の皆さん・・私、これ以上の流血に耐えられません。
 私には政治はわからないけど、命の重さはわかってるつもり。
 だから・・・弥生さんと話をさせてください。ここで流す血を少しでも減らしたいんですっ・・・」
アリサは、必死に祈った。だが、敵の防御網は厚くそんなことは到底無理だろう。
「アリサ隊長・・・あなたはつくづく、軍人に向いていませんな・・・」
ゴードンがため息をつく。そしてこう続けた。
「もう・・こんなにも将軍として不適格な人に何年従ってるんだろうな・・・」
苦笑するゴードン。だが、その言葉に嫌悪の感は一切混じっていなかった。
「・・・私1人で・・・弥生さんの・・・いや・・・」
アリサはちょっとつぶやくも、慌てて口を閉ざす。
「やれやれ・・・私、これでもあなたとは古い付き合いになりましたからな」
「そうだね・・・初めてあったときは、荒っぽい軍人だったのに・・・今はすっかり副官らしくなったね・・・」
アリサは、クスッと笑う。
「初めて会った時か・・・何年前だろうか・・・酔ってあなたに絡み、そのまま競馬勝負になりましたっけな・・・」
「今でも、負けないよっ」
「勝てるとも思ってませんよ」

・・・そして、わずかばかりの沈黙。

「・・・言ったらどうなんですか? 1人で弥生さんのところに行きたいとね・・・」
「でっ、でも・・・でも・・・」
「迷うことは指揮官の仕事ではないですよ。決断するのが指揮官の仕事・・・」
「わかった・・・私、1人で・・・ううん、フガクと一緒に弥生さんのところへ行くよっ! だから・・・囮になって欲しい・・・」
「あなたの悪い癖だ。あなたはどうも、そういうことに関しては穏やかに言いたがる・・・われわれにどうして欲しいんです?」
意地悪く、ゴードンが聞き返す。アリサはすぐには答えられず、ただ、涙があふれるばかりだった。
だが、さっき言われた通り決断した・・・だったら、兵士にも、どうして欲しいかいわねばならない。アリサは、ゆっくりと口を開く。
「要するに・・・死んで・・・もらいたいの・・・」
「・・・よろしい。よくできました」
ゴードンが、フンッと鼻で笑う。だが、そのとき伝令兵が叫ぶ。
「紫電隊、突撃をかけて来ますっ!」
「えっ・・・?」
見れば、約600人残った紫電隊は、こちらへまっすぐ突っ込んでくる。
「前衛部隊、敵を迎撃してっ!」
アリサは、すぐに前衛へと指示を出す。
「隊長・・・あなたが今やることは指揮ではありますまい? ・・・早く行って下さい・・・」
「ゴードン・・・ありがとう・・・」
アリサは、ゆっくりとゴードンへとフガクを寄せる。
「ゴメンね・・・いままで・・・ありがとう・・・こんな御礼しかできないけど・・・」
アリサは、そっとゴードンの頬にキスをする。そのとたん、そばの兵士が騒ぎ出す。
「おーーーっ! ずるいぞゴードン!」
「そうだそうだ! コノヤロウめー」
そばにいる数十人は、初代雪風からずっと生き残ってきた兵士だ・・・
もう、全員の名前が言えるし趣味や特技まで知っている・・・
「ほぉ・・・いいものを頂いたな。」
にやりと笑うゴードン。
「ゴメンね・・・私、好きな人がいるから・・・本当のキスはできないんだ・・・」
そのとたん、再び周りが騒ぎ出す。
「なにーっ! アリサちゃんに好きな人がーー?」
「アリサちゃん誰だよそれはー、冥土土産に教えてくれよー」
アリサは涙目でクスッと笑う。
「それはね・・・空将軍だよっ・・・」
「えー? 意外だーーー!」
「アリサちゃん、やるじゃねーか!」
もう、宴会並みの騒ぎである。前衛部隊は今も今も命を散らしている。
「みんな・・・今までありがとう・・・ありがとう・・・私、行くよっ♪」
アリサは、目に涙を浮かべながらおどけて投げキッスをしてみせる。
「いよっしゃぁ、任せとけー!」
「アリサちゃん、頼むぞー!」
兵士たちが、鼓舞する。
「みんあ、ありがとう・・・私、あなたたちの死、無駄にならないと信じる、信じるよっ・・・ありがとう、本当にありがとうっ」
アリサは、さっとフガクを走らせた。もう、あの場所にいたいような、いたくないような・・・不思議な気持ちだった。

「・・・行ったか。さて、最後の我らの仕事、やりとげんと・・・な」
ゴードンが、ゆっくりつぶやく。
「ゴードン、なに指揮官気取りしてやがるんだ、さっさと行くぞコラ!」
「悪い悪い・・・では、行くぞ・・・ツバメ軍団、全騎・・・突撃!」
「うぉぉぉぉーーーーっ!」
最後の突撃をかける兵士たち。その士気は尋常ではなかった。
「紫電隊」を勢いで撃破するものの、その被害は伊達ではなく、次々と敵の波状攻撃を受けてツバメたちは力尽きた・・・
そして・・・ツバメは、みな南国へと旅立つ・・・

帝國第9部隊「Schwalbe」壊滅

===
PL:これで、とりあえずアリサっちの行動は終わりです。
キャラロールに協力していただいた皆様
SSに協力していただいた皆様
企画参加しているすべての皆様
そして、企画を運営していただいたGM様、ありがとうございました。

あとは・・・エンディングとSSだけかw

(2002.12.03)


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