“the Showdown”
バーネット=L・クルサード
「現状報告!!」
バーネットの声が部隊の中に響く。
ラ・コリスディー郊外においてレヴァイア私兵隊総司令ファミリア=スティーヌの部隊と戦闘が始まってから既に3日ほど経つ。
「約600名ほど死傷、動けるのは残り800ほどです!!」
兵士が慌しく被害報告を告げる。
「ちっ……昔っから守りは相変わらず硬いってか」
バーネットから仕掛けてもファミリアはただ反撃のみに徹していた。
「ならこっちにも考えがある……ハイレイスに伝令だ。鍵はアイツが握ってる」
「はっ」
バーネットの命令と共に伝令兵は走り去る。
その姿を見届けると、彼女はファミリア隊の方へと視線を向けた。
「ファミリア……あんまりあたしを舐めるんじゃないよ?」
「バーネット、私の動きが見えていないようでは貴女に勝ち目はありません……」
ファミリアがポツリと呟く。
「敵部隊、近づいてきます!!」
「迎撃体勢を。今はこちらから攻撃しないように」
しばらくの沈黙。
迎撃体勢のままじっとしていたが、ただそれだけであった。
「敵部隊、攻撃してきません!」
「…………」
伝令の言葉に眉根を寄せつつ、じっと考える。
移動しただけ?
ただそれだけ? それはないだろう。
そんなことがファミリアの頭を過ぎる。
だが、その思考も直ぐに破られた。
「伝令、右翼より別部隊が攻撃を仕掛けてきました!! その数およそ1000……」
「直ちに迎撃。直ぐに押し返しなさい」
伝令兵の言葉を遮るようにしてファミリアは指示を飛ばす。
その言葉に応じるように彼女の部隊は迅速に、そして、あっさりと攻撃してきた部隊を押し返す。だが、それでも無傷というわけには行かない。
「被害報告を」
敵部隊の攻撃を退け、警戒しつつ再びファミリアが指示を出す。
「死傷者はおよそ200程度……」
数だけを確認すると、すっとファミリアは伝令兵を手で制す。それ以上の情報は要らないから下がれ、という意味だ。
「……やってくれますね。ですが、まだ」
言葉と共に細かい指示が隊に飛ぶ。私兵隊の面々はそれを受け、また迅速に対応して陣形を整えた。
「各員に伝令。帝国第13部隊に攻撃を仕掛けます」
命令を声高に告げると同時にファミリアがすっと右手を挙げる。それを合図に私兵隊は一気に駆け出した。
「ちっ、ようやく仕掛けてきたか!」
部隊の先頭で槍斧を振るいつつ、バーネットは敵兵を斬り倒す。
今まで反撃に徹していたファミリア隊が初めて仕掛けてきたのである。
「オラオラオラオラァッ! 邪魔すんじゃないよッ!!」
怒声を上げて近づいてきた敵兵を斬り、叩き落し、自分への攻撃を退ける。
だが、その一方で彼女の周りに居た兵は1人、また1人と数を減らしていく。
「そろそろ、ヤバイか?」
1人状況を感じている間にも、辺りでは鮮血が宙を舞い、悲鳴が上がる。だが、先よりも敵の攻撃の勢いは衰えている。もう少し、もう少しだけ耐えれば良い。
「こっ酷くやられたな」
ファミリア隊の攻撃を退けた後、隊を整えるために視認できる位置に居つつ、攻撃するには少し時間がかかる位置へと移動する。
「今の攻撃で金髪の女を仕留めたか?」
「いえ、そのような報告は入っておりません」
「……そうか」
その報告に答えると長い沈黙の後、一つ溜息を吐く。
それは落胆と安堵が入り混じった複雑なものだったことは、当人以外には……いや、当人にも解らなかったであろう。
「今の攻撃で、紅い鎧の女性は仕留めましたか?」
「いえ……そのような報告は入っていないようです」
「そうですか」
報告に淡々と答えるとファミリアは指示を出しつつ副官に問いを投げかけた。
「今無事に動けるのはどれほど居ますか?」
「約270名ほどです……ここは一度退いてはどうでしょうか?」
「なりません」
「ですが」
「なりませんと言っています」
ファミリアは冷たい視線で副官を射竦める。
その視線に副官はそれ以上何も言うことができなかった。
「そろそろ……決着のようですね。リンデ」
「残り285人……か。相手の数は?」
「大体こちらと似たようなものと思われます」
「そうか……国境警備隊のハイレイスに伝令。『感謝する。後は頼んだ』と伝えてくれ」
バーネットの言葉に兵士は一瞬硬直する。
「何をしている。早く行け。行かないとアンタの首と胴体がお別れすることになるぞ?」
「……はっ」
伝令兵はバーネットの言葉に臆することなく、敬礼をする。そして、掛け声と共に馬を走らせ消えていった。
「さて……」
槍斧を構え一つ大きく息を吐くと、遠くに見える敵部隊を視認する。
「リンデ・クルサード……推して参る」
その言葉と共に、バーネットは馬を走らせる。それに続くように第13部隊の面々が続き、馬蹄音が辺りの空間を支配した。
そして、2人の戦いは――決着を迎える。
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