奇縁

ベルンハルト・フォン・ルーデル

………その人物とルーデルが最初に出会ったのは、彼がまだ士官学校の学生で
あった頃だったと考えられる。
その出会いが偶然の産物であったとは、必ずしも言えない。
士官学校の近辺に各種の酒を扱っている店は1軒しかなく、学校を抜け出して
酒を買出しに行く不良学生達にも、また生徒の飲酒を取り締まる立場の教師達
にも選択の余地はなかったのだから。
ルーデルも、そして問題の人物であるバーネット・クルサードも真面目な学生
ではありえず、その店の経営に少なからぬ貢献をしていたのは、衆目の一致す
るところである。
………ともあれ、ルーデルが呼び出しを受けて校長室に現れた時、バーネット
・クルサードは既に校長室で説教を受けており、公式文書において両者が並ん
で登場したのは、この時が初めてとなっている。

ルーデルの記憶によれば、その時クルサード家の長女は特に悪びれる様子もな
く平然と説教を受けており、校長自身その効果の無力さを感じていたようであ
った。
ただ、彼女には別の言い分があったらしい。
「…………昔から可愛げのない学生だったよ、アンタは。あれだけ小言を貰っ
た当日から、平然と飲んでいたんだからさ。」
……結局校長は二人の問題児にグラウンドを20周程走らせる以外の解決策を思
いつかなかったらしく、二人はささやかな肉体労働で放免となったのである。


あれから数年。
壁に備え付けられたランプの光が、グラスの中で揺らめいた。
「……出発は、いつだ?」
高級士官が集まるバー、「白鯨」の片隅で、ルーデルは軽くグラスを傾ける。
「明後日。ヒルデも一緒だし、なんとかなるさ。」
バーネットが、手札を眺めながら短く答える。
二人の間に並ぶウィスキーのボトル、3本のうち2本は既に中身がない。
軽くグラスを傾けた彼女は、3枚のカードを交換し、手札に目を通して笑みを
浮かべた。
「……キングとジャックのフルハウス。今日は、アンタの奢りだね。」
………それに答えるかのように、ルーデルが無造作にカードを放り出す。
3枚のエースに混じり、道化師が皮肉な笑いを彼女に投げかけていた。
「悪いな。エースとジョーカーのフォーカードだ。」
「……やれやれ、戦場に出陣しようという僚友に勝ちを譲って、気持ち良く送
り出してやろうという気遣いはアンタにはないの?」
「……悪いが、勝負事に手を抜く趣味は持ち合わせていない。」
すました顔のルーデルを、バーネットは軽く睨む。
「………生還祝いは、アンタに出させてやるからね。」
「……そいつは、楽しみだ。」
軽く握手を交わし、彼らはそれぞれの方向へ歩み去る。
昔から変わることのない、彼らはそんな仲だった。

(2002.08.27)


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