嵐の予感
ベルンハルト・フォン・ルーデル
雨の粒がルーデルの肩で弾け、ルーデルは無言で空を見上げた。
その視界に、重く垂れ込めた雲が映し出される。
(……少々、荒れそうだな……)
ルーデルは心の中でそう呟き、視線を前に戻した。
その眼前に展開するのは共和国第10部隊、Legion。
共和国最高の勇将と称される、キロール・シャルンホスト将軍
の率いる部隊である。
突撃の命令を下すべくルーデルはゆっくり腕を上げ、そして振
り下ろした。
その号令に答え、第三騎士団は徐々に速度を上げつつ共和国第
10部隊へと一直線に突き進む。
密集隊形をとった共和国第10部隊が、それを迎え撃った。
互いの槍がすれ違い、その穂先に貫かれた人馬が次々と血煙を
撒き散らしつつ絶命する。
思考の暇もなく絶命した人馬の屍を飛び越え、第三騎士団の第
二陣が敵陣深く突入し、繰り出される槍先が共和国第10部隊の
兵士達をなぎ倒した。
その様子を前線近くで見やり、ルーデルは僅かに顔をしかめた。
共和国軍の動きが、予想以上に鈍い。
(……らしくないな、シャルンホスト。何があった……?)
そう敵将に心の中で呼びかけつつも、その手は容赦なく敵軍を
駆逐すべく指示を飛ばし続ける。
手加減すべき謂れなど無論ない。
この程度で倒れる男なら、所詮はそれまでということだ。
(……卿と戦うためにここまで来たのだ。俺を失望させるなよ、
シャルンホスト……?)
そう心の中で呟くルーデルの口元に、冷たい笑みが宿っていた。
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