伝染する狂気

ベルンハルト・フォン・ルーデル

(共和国軍の動きが変わった……?)
ルーデルがその報告を受けたのは、先刻降り出した雨が一段と
激しさを増した頃だった。まだ正午に近い時間帯であるという
のに、視界はもはや日暮れに近い。
表面上はあくまで静かに報告の続きを促すルーデルに、伝令が
声を張り上げた。
降り注ぐ雨音に落雷の音が混じり、並の声ではもはや聞き取り
難いためだ。
「……シャルンホストが、前線に出てきています! 共和国軍、
 先刻までの動きの鈍さが嘘のように我が軍を圧迫中……!
 奴の戦いぶりは……あれは……まるで、悪鬼だ……」
最後の一言は、偽らざる感想であったろう。
無言のままルーデルはその報告を聞き終えると、静かに突撃の
指示のみを出した。
どのみちこの天候では精密な指揮などは味方の混乱を招くこと
にしかならない。
ならば、全ての兵力を動員して敵を駆逐するのみ。
最前線に出てきた敵将を討ち取れば、戦いはその瞬間に終了す
るのだから。
「第一命令、突撃せよ! 第二命令、突撃せよ!! 第三命令、
 ただただ突撃せよ!!! ここを連中の死に場所にしてやれ!!!!」
落雷に負けじと声を張り上げる副将の声を聞きながら、ルーデ
ルは愛馬の腹を蹴った。
「……閣下、どこへ……!?」
止めに入る副将を手で制し、まるで引き寄せられるかのように
ルーデルは前線へと馬を進めた。
冷たい雨の降り注ぐ中、それでも冷めることのない高揚感がル
ーデルを包む。
血を、敵を、そして戦いを求める獣の本能。
理性も、忠誠も、恋人への愛情ですらも止めることのできない、
救い難い狂気。
静かな微笑を浮かべて、ルーデルは心の中で呟いた。
(……さあ殺し合おうか、シャルンホスト。大義も、理想も、
 希望もここにはない。あるのは、ただ生と死のみ……。だが、
 俺達にはそれで十分ではないか……?)
雷光が、その姿を束の間浮かび上がらせる。
……そこには帝国の誇る隻腕の猛将の姿はなく、ただ戦いを求
める血に飢えた修羅の姿があった。

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PL注:突撃命令は銀英伝のパクリです(爆)


(2002.11.12)


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