死にゆく者の為に

ベルンハルト・フォン・ルーデル

……ある、噂がある。
強烈な輝きで世界を照らす太陽が、その輝きと共に消えるという噂。
そして夜空を冷たく照らす月が、命数を使い果たして消えるという噂。
……太陽の名は、セルレディカ・フォン・ラグライナ。
そして月の名は、ソフィア・マドリガーレといった。

闇色の鎧を纏った一団の中、唯一鎧を纏わない隻腕の男がいる。
何も言わず、身じろぎもせず……男はただ静かに夜空を見上げている。
空に月は無く、辺りを照らすものは何一つ無い。
しかし、このような新月の晩でも星は静かに輝き続ける。
これまで巨星達の影に隠れて見えなかった幾多の星が、空に新たな輝きを放っていた。
そう、まるでこれからの帝国を示すかのように。
……やがて男は夜空から目を離し、視線を北に向けた。
……視線の先にあるのは、共和国首都、ガイ・アヴェリ。
……そして彼らは、静かに動き出す。
……この戦争を終わらせるために。

……死にゆく者に、凱歌を手向けとして贈るために。

(2002.11.27)


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