死にゆく者の為に
ベルンハルト・フォン・ルーデル
……ある、噂がある。 強烈な輝きで世界を照らす太陽が、その輝きと共に消えるという噂。 そして夜空を冷たく照らす月が、命数を使い果たして消えるという噂。 ……太陽の名は、セルレディカ・フォン・ラグライナ。 そして月の名は、ソフィア・マドリガーレといった。
闇色の鎧を纏った一団の中、唯一鎧を纏わない隻腕の男がいる。 何も言わず、身じろぎもせず……男はただ静かに夜空を見上げている。 空に月は無く、辺りを照らすものは何一つ無い。 しかし、このような新月の晩でも星は静かに輝き続ける。 これまで巨星達の影に隠れて見えなかった幾多の星が、空に新たな輝きを放っていた。 そう、まるでこれからの帝国を示すかのように。 ……やがて男は夜空から目を離し、視線を北に向けた。 ……視線の先にあるのは、共和国首都、ガイ・アヴェリ。 ……そして彼らは、静かに動き出す。 ……この戦争を終わらせるために。
……死にゆく者に、凱歌を手向けとして贈るために。
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