モンレッドの朝
カーチャ・ボルジア
モンレッドは共和国の西、アドレア海に接した港町である。
町とは言っても漁民達の集落がある程度で平坦な地形には砂丘
と草原が広がっている。
野戦陣地の築営には適した場所であった。
勢い、共和国軍も帝国軍もここに天幕を張り陣地を構築して
いる。
会戦は今まさに始まろうとしていた。
既に共和国軍からは彩音部隊がユーディス部隊に早朝突入を
果たしている。
日が昇ると同時にカーチャは副将のアメリアを引き連れて見
張り台に登り戦況を観察していた。
「彩音の奇襲攻撃は成功したようだな。」
「ええ。カーチャ様。ユーディスは後送されたようですわね。
共和国の初陣は勝利で飾られました。」
その時である。突然、カーチャは胸を何者かに抱きすくめら
れた。
「カーチャさん、おはよっすー♪」
犯人は共和国女性を抱きしめるのを趣味にしているカオス将
軍であった。しかし、この時ばかりはカオスはいつものように
女性の胸の感触を楽しむ訳にはいかなかった。
「おはようはいいがな。腕に痛みは感じなかったか?」
カーチャはにべもなく抱きしめられたままカオスを問い質す。
「は? いえ別に……気持ちいいだけっすよw」
「そうか・・・ この毒針はうまく出来たようだな。痛みを感
じさせないまま相手を刺せるらしい。」
Vネックの胸元を開くと、カーチャは胸に仕込んでおいた毒針
を取り出して見せた。針からは液体が沁み出している。
カオスがカーチャを抱きしめた時にカオスの二の腕を貫いた
薬品の残りらしかった。
戦場とは女性将軍にとって危険な場所である。
カーチャは自身の防衛のために身体の各所に毒針を仕込んで
いた。これは、敵、味方を問わずに自分を守ることにつながる
のである。
「しかし、お前がかかるとはな。悪寒、吐き気、目眩は感じな
いか?」
「ぐぁっ…く、くるしいーーー!!」
「何故だろう? 遠い未来にこれと同じ事が起こる気がする・・・」
「何ワケわかんない事言ってんすかー!?(T□T)」
「ただのシビレ薬なんだがな。人によってはアレルギーが出る
らしいな。」
この頃にはカオスは床を転げまわって苦しみ始めていた。
「って、分析はいいから解毒剤をー!」
「まあ、待て。せっかくだから、薬の効能を調べる。もう少し
おとなしくしていろ。」
妙に冷静なカーチャである。
しっかりとカオスの脈拍を測り、瞳孔反射、発熱、リンパ節
の腫れまでしっかりと調べ始めた。
「出来たら尿検査もしたいんだが。」
「とにかくまず解毒してぇ〜!!(泣)」
「死んでからでは検査も出来ないし、この辺りで治療するか。
この薬剤ならカルシウム投与が効果あるはずだ。アメリア、牛
乳を大ジョッキで汲んできてくれないか?」
カオスはアメリアが牧場から汲んできた特大ジョッキの牛乳
を一気飲みして息を吹き返した。だが、すぐには毒の効果が消
えるはずはない。その日はカオスは一日ベットに横たわること
になり、指揮官が寝たままでは部隊も前線に出撃することは出
来なかった。
夕刻になって、前線の彩音将軍から苦情の早馬が陣地に届け
られた事は言うまでもない。
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