出戦
カーチャ・ボルジア
第二次モンレッド会戦は先の会戦とは異なり、戦いは要塞を巡る攻防戦ではなく、野戦部隊同士の対決を呈していた。カーチャの部隊も戦線が南方に移ると見ると要塞から出兵して、敵部隊の掃討に当たる事になった。位置するのはキロール部隊の右翼。更に左翼にバンドル部隊が布陣したことにより、共和国軍はキロール部隊を中心とした翼隊形で帝国軍と立ち向かう形を取ったのであった。
「なんだかカーチャ様はご機嫌が悪いみたいですね。キロール様のような強面はお嫌いですか?」
「アメリア、アタシが嫌いなのは坊主くらいだ。」
ベンケーといい、吊橋の幽霊といい、何故か僧にはひどい目にあっているカーチャであった。元々、潔癖症だった彼女であるが男性の中でも僧侶とだけは付き合いたくないと決めたようである。そもそも、どうしてあの破廉恥なベンケーが養父遺言の「フライアー・ベンケー」と同じ名前なのか?いくら養父の遺言で訪ねる様に言われているとはいえ、あの男を訪問する気にはとてもならなかった。偶然に同一の名前であるに過ぎないと思い込むことにしているカーチャである。
「来ました! 10時の方向から敵騎兵およそ100騎!」
見張り台の哨戒兵から突然の伝令が届いたのは、ユーディス部隊の突撃が一段落した頃であった。
「100騎? 少ないな。威力偵察か?」
「いえ、将軍旗が掲げられています。あれはカオス殿との戦闘で生き残った遊撃騎嬢部隊です。」
「てっきり、ルーン方面へ撤退したものだと思っていた。まさか、戦闘をするつもりではないだろうな?」
「カーチャ様、そのまさかです。我が先鋒隊に攻撃を仕掛けて来ました。」
言われてみれば、その通りに見える。野戦陣地の外側では馬達が激しく駆け回り土煙で視界が利かなくなっている。戦闘が行われているのは間違いなかった。カオス部隊との戦いで消耗仕切ったカオルィア部隊が突撃を仕掛けてきたのであった。
「アメリア、アタシが嫌いな者がまだいたぞ。」
「はっ?」
「帝国軍さ。」
元はコーリア国の農夫の娘だったカーチャである。それが帝国軍に養父を殺された事で、今は共和国軍にいる。カーチャが帝国軍を憎むのは当然だった。
「敵騎兵は皆殺しにしろ。投降した者も許すな。わざわざ死を覚悟で突撃してきたのだ。思い通りにしてやれ。」
「カオルィア殿はどうされます?」
「無論、殺せ。アタシの前に届けるのは首のみで良い。身体は犬に食わせよ。首は検分の後に投石器で帝国軍陣地へ放り込むが良い。」
指揮官のカーチャがこのような性格なのだから、兵達が敵に情けなどかけるはずが無かった。戦闘は陣地外での騎兵同士の一騎打ちとなっていた。カオルィア部隊も良く戦ったが所詮は多勢に無勢である。一騎、また一騎と倒されていく。カーチャ部隊の兵達は倒れた騎兵を生かして置くことをしなかった。まだ息のある兵はわざわざ焚き火まで引きずって行き、生きたまま焼き殺すほどの念の要りようである。さすがの共和国騎兵もこの行為には帝怖れを抱いた。戦闘で動けなくなった兵士たちの中に毒を飲んで自害する者達が現れたのである。服毒した兵士は次々に呼吸困難に陥り、涎を垂らしたまま死んで行った。敵騎兵が服毒自殺をしている。この件は早速カーチャに知らされた。
「その症状はカンタレラではないか。」
そもそも、カンタレラはカーチャ養父のラーヒデが門外不出としていた毒薬である。それが帝国軍に配布されているはずがなかった。
(そう言えば思い当たる節がある。隻腕の帝国将軍ルーデルはカンタレラを塗った針に刺されて左腕を失ったという噂だ。カンタレラは帝国で使用されている。)
「前言撤回だ。カオルィアは捕らえよ。聞きたい旨がある。決して殺すな!」
結果としては自決用の毒を自軍に配布していたことがカオルィアの命を救ったのであった。全軍の壊滅を見せ付けられて、敵将カオルィアはカーチャ部隊に囚われの身となることになる。
凌辱SSへ続く・・・
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