議事録・その1(仮題)
カオス・コントン
開戦前、ガイ・アヴェリ中央作戦会議室
その日、帝国軍襲来の報を受け数々の文官・武官が召集されたその部屋では国防に向けて活発な議論が展開されている……はずだったのだが。
「ん………」
いきなり眠たげに目をこすっている女性が一人……評議会委員エヴェリーナ・ミュンスターである。
「ぬ…エヴェリーナさん、おねむっすか?」
と、こちらは共和国軍の将軍(正確には将軍代理だが)カオス・コントン。
「眠くないと言ったら嘘になるんですけど……。それ以上に、今論議しても始まらないって空気がどうもね」
そう――帝国軍侵攻の報を受けて集まったはいいが、未だ敵の正確な位置がつかめていないのだ。
そのため自軍の編成を済ませてしまえば後は続報を待つ事しかできない。
「んじゃ、今のうちに休んでおいたらどうです? 昨日も情報委員会に泊り込みだったみたいですし…。なんなら送っていきますよ(^^)」
エヴェリーナの隣に席を移し、さっそく口説き始めるカオス。
その満面の笑みで話し掛ける様子を眺め苦笑をもらす将軍が一人――共和国の武人、ショウ・ラングドである。
「あぁ、またやってる…ホントによく続くなぁ」
「そうですねぇ。今日は成功するんでしょうか…(^^)」
柔和な笑みでそう応えるのは評議会委員のセグトラ。
そして他の将軍たちもいいヒマつぶしとばかりに見物にまわっている。
が、当人の成果のほどは……
「結構です【キッパリ】」
「って、ンなそっこーで却下しなくても…心配してるのにぃ〜〜(TT)」
「あなたと一緒の方がよっぽど危険だと思うんですけど……【ジト目】」
情報活動委員会副委員長として共和国の諜報活動を一手に担うエヴェリーナは各将軍の素行や評判について耳にする事も多い。
その中でカオス将軍の評判はあまり良いとは言えないのだ――特に女性に関する事は。
「なんにもしませんって! これからますます忙しくなるのは間違いないですし、そうなる前に休める時は休んでほしい……ただ、それだけっすよ」
「うーん、そのお気持ちは有り難いんですけど…」
「ですけど……何すか?」
「カオスさん、何か落とした物はありませんか?」
「は? 落とし物…って、ああぁっ!!Σ( ̄□ ̄;)」
振り向いたカオスの視線の先、今まで自分が座っていた席にあったもの……それは縄であった。
どこをどう見ても小さくまとめられた――そして人一人縛るには十分な長さのありそうな――縄が、椅子の上に転がっている。
「………………」
「ちっ……ちがうチガウ!ちがいますって!! あれは別に今から縛ってどーこーしようとかそぉいうんじゃなくって、単に標準装備っていうかなんていうか…そのぉ〜〜【汗アセ】」
「……私、今日は1人で帰ります。お疲れ様でした」
「あっ、ちょ……え、エヴェリーナさんっ!」
「…………【パタン】」
必死に弁解しようとするカオスを尻目に、さっさと退室してしまうエヴェリーナ。
会議室の冷たい扉を前にガックリとうなだれるカオス……。
その背中に、今まで見物していた将軍たちから温かい言葉がかけられる。
「なんとも間が悪いというか…ホントよくそれだけフラれるなぁ」
「えぇっとぉ……これでカオスさんの二十三連敗、と…【メモメモ】」
「って、おまいらっ! 少しは慰めるとかないんかーいっ!!(T□T)」
あくまでもノホホンとした様子のショウとセグトラに食ってかかるカオスだが二人ともどこ吹く風である。
「だって事実じゃないか。別に今さらこたえたりもしないだろうし…」
「オレだってヘコむ時くらいあるわぁっ! それにセグっ、なんだそのメモは!? 紙だってきちょーな資源なんだ、無駄使いするなーー!!」
「いいえぇ、これも後世に残すための大事な資料ですから…(^^)」
「だあぁっ、もう……こーなったら、街にナンパしに行ってやるーーー!!(><。」
どさくさまぎれに仕事をほっぽり出して逃げようとするカオス……。
が、これを見切っていたショウがすでに先回りしている。
「まてーい!【すぱこーん】」
「はぶっ!?」
「カオスさんの部隊はいっつも事務処理が遅いんですから…。さ、ちゃんと最後まで片づけてってくださいね(^^)【ズリズリ引きずっていく】」
「ああぁ……今日もいいトコなしぃぃぃ(TT)」
緊迫の度合いを深める情勢とは裏腹に、今日も平和な共和国会議室であった。
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