カオス・コントン

 第3部隊壊滅――その報を聞いた時のカオス将軍の反応は、ごく静かなものだった。

「…………そうすか…」

 一言だけ答えると、伝令を下がらせ再び作戦会議に戻ろうとする。
 その背中に周りにいた部隊長の一人が声をかけた。

「なぁに落ちつき払ってんだよ! もちろん助けに行くんだろ、大将!!」

 ぴくり、僅かに肩を震わせて立ち止まり……やがて、ゆっくりと赤毛の部隊長を振りかえり言葉をつむぐ。

「軍人は議会の決定に従い、与えられた権限の中でその実現に努める。
 それが共和国の軍隊ってものです。
 現在の指令は、首都防衛……勝手に動く気はありません」

 静かに…そう静かに、感情を押し殺した声で告げる。全ての思いを、震える拳で握り潰しながら。

「うッ…な………い、いやっ、でもよぉ…!」
「まぁま、どっちも落ちついて…(・w・ 」

 その雰囲気に呑まれそうになりながら、それでも口を開こうとした部隊長とカオスとの間に一人の老兵が割って入った。そして場の雰囲気をゆるめるような、ノンビリした調子で続ける。

「この若大将の妙なガンコさは昔っから。その大将がここまで決意したというんなら、今さら何を言おうと変わりゃせん……じゃろ?」

 言い聞かせるような老兵の言葉に赤毛の部隊長が反論しようとするも、うまく言葉が出てこない。
 しばらく口をパクパクさせていたが、ややあって諦めたように深く深く息を吐き出した。

「あぁ、もう……わぁーったよ。 んじゃ攻撃に出る時はオレが先陣切らせてもらうぜ、いいよな!?」
「うい。そん時ゃもう、存分に暴れてくださいっす」

 フン、と鼻息も荒く、足音を立てて赤毛の部隊長が出ていく。やがて他の人間も天幕を出て離れていったのを確認してから、ようやくカオスが深くため息をついた。

「はふうぅ……………すんません、じーさま。毎度ながら助かります…」
「いや何、お安いご用じゃて。しかし…本当に良かったのですかな?」

 顔色を窺うように覗きこんでくる老将――ちなみに事実上の副官でもある――に、カオスの沈んだ声が応える。

「そりゃ良くはないっすよ。今だって、心配でたまらない。本当に………本当に、ね…」

 沈んだ声で告げ……しかし次には、影のさしていた顔が少しだけ柔らかくなる。

「ただあの人は、自分で道を切り開いていける人すから……きっと帰ってきますよ。
 そう信じさせてくれる人だから、カオス将軍は軍人としていられる」

 その様子に少しだけ目を細め……しかしもう一つだけ問うておくべき事を、老将が口にする。

「まぁ、そうなると良いのですがな。しかし女性の身では何かと辛い事も多いでしょう……本当に『戻れ』ますかな?(・w・ 」

 そう、それこそが問題である。仮に捕虜交換などがあったとしても先に本人が参ってしまえば意味は無い。それまで乗りきる事が出来るのか……だが、この問いに対する答えは先程より早く、そして力強いものだった。

「だから、オレがいるんじゃないすか。
 いつもエヴェリーナさんの中にいる……いつでも、エヴェリーナさんの力になる。
 カオス・コントンって男が、ね」

 穏やかな声で告げるカオスに、少しだけ目をしばたかせ…ゆっくりと、老将の顔に笑みが浮かんできた。

「ふふ……ほっほっほ。どうやらワシからも言う事はないようですな(^w^ 」

 ほふほふと顔をほころばせる老将に釣られ、やがてカオスの顔にも少しだけ笑みが浮かぶ。
 しかしそれも一瞬で打ち消し、再び険しい顔付きへと戻る。

「そろそろ第2部隊――白馬騎兵団の動き出す頃です。オレたちも遅れないよう、行くとしましょうか」

 それだけを言って天幕を出るカオスの後に、老将が続く。 自らの戦場へ向かうために…。

「行くぞ! 青嵐隊、出撃!!」

―――――――――――――――――――――――――
PL:う〜ん…エヴェリーナさんとの関わり方とかカオス君の将軍としてのスタンスとか、じーさまのキャラとか、色々と書きたかったのですが……なんかどれもビミョーに。
  やっぱり真面目系は苦手です(^^;ゞ


(2002.11.29)


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