聖都攻略に向けて
グレイアス
帝国の占領下におかれたシチル。
その臨時司令部にと徴収された役所の一角。
グレイアスは執務室としてあてがわれた部屋で聖都攻略の作戦を練っていた。
「やはり篭城戦か…」
机上の地図を見ながら呟く。
「問題は、どう動くかだな…時間を稼いで共和国の方から崩してくるのを待つか、それとも一気に勝負を掛けて来るか…どちらにしろ要になるのは…」
地図の一点を睨む。
「あの橋の所だろうな」
広い河に渡された一本の橋。それゆえに隊列は細長くなり、分断されやすくなる。
「こちらとしては力任せに押しきるか、誘い出して叩いていくかだが…」
力任せではこちらの被害も馬鹿にならないし、誘い出すにしても、もし向こうの狙いが時間稼ぎだった場合、延々と睨み合いが続く事になる。
「守りに徹するには都合が良い場所だからな……」
自分だったらどうするか。
守備に徹する
攻勢に出る
攻勢と見せかけ、帝国領の攪乱にまわる
………
「後ろに回られたら厄介だが…」
橋のシチル側に渡られ、そのまま鬼哭やシチルに抜けられた場合、法術部隊が半数を占めるクレア攻略軍は追撃できず、厳しい状況になるだろう。
しかし…
「封鎖するのはそれほど難しくない、か」
橋の東側に部隊を広く展開し、突破を困難なものにするのは容易だ。
「攻勢にまわるなら」
補給の利かない彼らは最初の一撃に全力を傾けるだろう。しかし、その時は無理に押し返そうとせずに受け流し、弱い箇所に穴を開けていけば良い。
「っつーか、向こうにこれをやられると面倒なんだよな……となるとやっぱ…」
溜息を一つつく。
「防衛と見るか…」
クレア側に立って、防衛案を検討してみる。
もともと卑怯な作戦を考えるのが好きなだけあって、幾つも案が浮かぶ。
「やはり伏兵が有力だな…船で河を渡ってこちらの背後を突く…」
「それとも山脈に兵を配置し、落石を仕掛けるか…?」
「いやいや、こちらの進路はほぼ予測されると見ていい。ならばそこに罠を仕掛けるか?」
ふむふむ…
「確実に通過する場所……橋のこちらがわに鉄条網でバリケードを築くか?」
……………待て
「バリケードを越えた所に地雷を敷設して……」
おい、コラ
「尚も進む帝国兵は、対岸に設置した重機関銃でなぎ払う」
そんなもんありません
「それでも数で押してくる時は、橋を爆破して部隊を分断」
するな!
「こちらがわに残った兵を戦車で蹂躙」
そんなもんも無いっ!
「立ち往生した本隊に爆撃機が絨毯爆撃!」
だから、無いったら無いのっ!
……………
…………
………
……
…
「…ま、まさか、聖都まで誘いこんだ所を『核の炎』で諸共にかっ!!?」
絶〜〜〜っ対に違うわいっ!!
この怪しいやりとりは、執務室の扉をノックされるまで続いたという…。
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