新副官着任

グレイアス

『コンコン』

 ノックの音が、クレアの行動を予測していたグレイアスの思考を引き戻した。
「どうぞ」
グレイアスの声に応えて入ってきたのは、ほっそりとした女性将軍だった。
背中まである髪を二つに分け、胸元に垂らしている。
「誰だい?」
その問いかけに、扉で一礼した女性はグレイアスの前まで来ると持っていた書類を手渡し、敬礼する。
その書類に目をやったグレイアスはそこに自分の問いの答えを見つけた。
「あぁ、貴女がラディス将軍か」

 それは新しい副官の配属命令だった。
これまでグレイアスの副官としてついていたリルルは、クレアとの最終決戦を目前に控えた今、戦力の増強の為にミル将軍の元に転属となった。
そこでグレイアスはリルルに代わって部隊の強行軍を指揮出来る副官を希望していたのだった。

「(こっくり…)」
グレイアスの言葉に頷くラディス。
「判ってるだろうが、第8軍を任されているグレイアスだ。これからよろしく頼む」
「(こっくり…)」
再び頷く。
「こっちに着いたばかりで色々と大変だろう。今日はもう良いから明日より任に就いてくれ」
「(びしっ)」
グレイアスの言葉に敬礼で返したラディスはくるりと向きを変え退出していった。

『パタン』


「なんか……リルルとは別の意味で取っ付き難そうな娘だな……。結局一言も喋らなかったし」
もう一度、手元の書類に目を落とす。
彼女が修得した技能の一覧の後に、人柄について書かれた欄がある。
「意外と行動力がある」等と書かれた中、一際大きな文字が目に付く。

「『無口』、か…」


 …………グレイアスが彼女の声を聞くのに成功するのは、これより3日後の事であった………。

(2002.11.04)


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