誤配
グレイアス
「グレイアス殿、ちょっとよろしいか?」
ノックの音と共に顔を出したのは同じ帝国軍に籍を置く水薙 雷夏、グレイアス曰く「かっちゃん」だった。
「よっ。かっちゃんから顔を出すなんて珍しいな?」
「うむ。お主宛の書類が誤って我の所に届いたのでな。持って来たのだ」
「それはすまなかったな。まぁ、お茶でも飲んでいってくれ」
グレイアスが声を掛けるとすぐに若い女性がお茶を運んできて、グレイアスと雷夏の前に湯飲みを置くと一礼して下がっていった。
その湯飲みに手を伸ばしながら、
「見ない顔だな? クレアの民のようだが」
「あぁ。ちょっとした縁でな、個人的に雇ったんだ。よく気がつく良い娘だよ」
「そうか、しかしあの娘にとって我らは侵略者。あまり気を許すものではない……む?」
そう忠告し、出されたお茶を一口含んだ途端、雷夏の顔色が変わった。
「かっちゃんも驚いたか」
同じようにお茶を飲みつつ、雷夏の持ってきた書類を広げていたグレイアスが面白そうに声を掛けた。
「俺もこれを飲むまで、ずっとお茶ってのは苦いものとばかり思っていたんだが…」
「これは?」
「あぁ、『うす茶糖』と言う飲み物だ。甘いだろ?」
(いや、それはもうお茶じゃない気がする…)
咽喉元まで出かかった言葉を飲み込み、雷夏は話を変えた。
「それより、その書類はなんだったのだ?」
雷夏が持ってきた書類には軍の封蝋が押してあった。ならば今後の作戦に係わる物かもしれない。
しかし…
「あぁ? これか。大したもんじゃない」
雷夏の前に投げ出される書類。
そこには「部隊名変更届」の文字が。
「また変えるのか…」
「あぁ、向こうを挑発する意味も兼ねてな、申請したんだ」
「どれどれ………」
書類には『クレア食べ歩き隊(仮称)』の文字。
「…この『仮称』とは?」
「いや、それは俺が付けた訳じゃない。帝都の方で許可を出す際に付けたようだな」
「………誰が申請許可だしたのだろうか…?」
「帝都のお役人じゃないか? たぶん 」
「…………役人の人選疑ってもよいか?」
表向きは何の感慨も出さないように心の内で苦笑しつつ言う雷夏。
「陛下だったらやばいな…」
「仮にそうだとしたら、セルレディカ帝の正気を疑うぞ、我は」
グレイアスの軽口に再び平然と、それでいて内心苦笑いで返した雷夏。
「「まさかな………」」
思わず嫌な想像が浮かび、そのあまりのリアルさに口を閉ざす二人であった…。
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