開戦前夜

料理長

トントントントン。
「そこ〜もうちぃっと火力上げて〜!」
ジュワ〜。
「おっし、出来あがったらすぐに輸送斑に回せ〜!」
たったったったったっ。

檄を飛ばしながら慌しい厨房を見回る。広い厨房内は、領地内からの有志も集めたのであろうか、三十人近い人数が黙々と作業をこなしている。
ここ数日、ガルデス共和国とクレアムーンとの臨戦態勢に本格的に入り、戦争準備に国が追われている中、私も厨房前線に駆り出されている。少しでも休息の場が質の高いものになるよう、日頃あまり関わらない一般兵の分も私が指揮を任されている。その片手間で保存食やらを大量に作る任もある。
「ふぅぅぅ。」
「主任。」
思わず腰に手をあててため息をついていると少し離れた所から声をかけられた。
「おっ、バンダムか! 調子はどうよ?」
バンダム。「クッキング」のメンバーの一人だ。
「早くもここは戦場と行った所ですかね、ここまで忙しいものだとは。」
バンダムは苦笑いを浮かべながら、私に密着するくらいまで接近した。互いにこれから何を話すか、それが周りに聞かれてもあまり良くない事を分かっているからだ。
「他の奴らはどうしてる?」
「フェザ、ライトは共に別の厨房で我々と同じ作業を。ウェルタ、クルーザ両名は食料の衛生管理に派遣されています。」
「そうか。大変な事になっているもんだなぁ。」
私はわざと笑顔を浮かべる。
「緊急時には、五分で召集可能です、隊長。」
予想通り、私の温和な発言には触れもせず、バンダムは最後には語調を強め言いきった。しっかり私への呼称も変えている。こんな所は昔からだ。本物の戦場にいた時からだ。
「報告承った、バンダム。また何かあったら伝えてくれ。」
「隊長、我々が出陣する事はありますでしょうか。」
「争い事は強〜い人達に任せればいいさ。私達の仕事は彼らのバックアップさ。」
「しかし…隊長。」
「それに、動けるのか?」
「っ…! この八年間、訓練、武装整備を怠った日はございません。部隊連携も衰えてはおりません…いや、向上しております!」
バンダムは興奮して言い返してきた。無論、この反応は期待通り。何より、その言葉も。
「ふん、当然だ。我々の任務、まずは皇女様の安全が最優先だ。五分?遅いな。緊急時には三分で皇女様の元に集結しろ。今はそれだけだ。行け。」
昔ながらの隊長の一面に驚きながらも、なにか嬉しそうにバンダムは持場に戻っていった。

「やれやれ、平和に解決できないのもんかねえ。ルフィア様がいたら…違ったのかな…」
今一度ため息をつくと、アームズは温和な料理長に戻り、また厨房を見回り始めた。

(2002.09.04)


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