それぞれの戦場へ

料理長

今晩、皆様方への餞として晩餐会を城内の大広間にて開宴いたします。
準備に追われてお忙しい将軍方々もいらっしゃると存じますが、振るってご参加下さい。

メニュー
オードブル
冷製パンプキンスープ
本日のパスタ(以下から一点、お選びください)
A.海賊風テンタクルパスタ
  豊富な海の幸に捕りたての触手を和えた、ここより遥か東にある大陸の名物。
  生きた触手から分泌される媚液は、一層旨みを引きたてます。
B.山賊の恩返しパスタ
  オウガやゴブリンといった精力満点な獣肉を惜しみもなく使用。ここより北のとある
  民族では、戦地に出向く男性が精力つけに食べていたとさ。
本日のメインディッシュ
  レッドドラゴンのステーキ
  捕獲が難しいとされる竜族のモンスター。その代表格の紅竜を丸ごとどうぞ。これに
  よって闘争本能をかきたてられた皆様方の部隊に敵などいない事でしょう。

* 来場の際には選択するパスタを決めておいてください。
* この他にも、バイキング形式で様々な料理等を取り揃えてお待ちしております。

厨房主任:アーネスト・アームズ

その晩。
決戦を前にした晩餐会は、帝国の将軍のほとんどが一堂に会していた。
友人と雑談を交わす者、一人片隅でグラスを手にしている者…。

各々の想いを胸に秘めて。
明日からは、それぞれの戦場へ向かう。

「わぉ………!」
一通りのオーダーの処理を終え、大広間の片隅に出たアームズは思わず声を発した。
「ん〜何だろう、オーラをひしひしと感じるねぇ。」
「帝国の部隊を率いる将軍達ですからね………」
隣にいたバンダムも、しばし圧巻されているようだ。
「見た目も濃い人達だなぁ。モリスのおじっさんでさえ初めて見た時は相当ビビったんだがなぁ。」
「日頃から将軍様達とはあまり関わりを持つ機会が無いですからね。」
バンダムもその個性溢れる帝国将軍を飽きずに見回している。

「隊長。」
しばらくすると声をかけられた。声の主は予定通り、今晩の接客をしている私の仲間だ。
「おぉ、クルーザ。数週間ぶり。ここ最近は労働漬けだったからなぁ。」
クルーザ。彼も「クッキング」のメンバーの一人だ。
「全くですよ。こっちは食品の衛生管理なんていう面倒臭い作業を延々とやらされましたよ。厨房にも立ってないんですから。」
クルーザはそう言いながら笑うと、私の横に同じ向きで並んだ。
「本題に入ってくれ。」
その行動の意味を悟ってクルーザを促す。
「了解しました。それでは、会食が始まってから聞き取れた情報をお話しましょう。」
アームズの晩餐会の目的は二つ、将軍達の士気上昇と、この情報収集だったのである。


話を終えるとクルーザは持場に戻っていった。彼が立ち聞きして回った将軍達の会話から、明日からの作戦の大まかな流れは十分に掴めた。
「戦術的には完璧……か。」
「そうですね。その計画通りにうまく進めばいいのですが。」
「そうだな。まぁ、これだけ強そうな方達だ、何とかしてくれるんじゃないかな。」
目的を果たし、再び厨房に戻る前に、今一度アームズは将軍達を顧みた。

(前線は……頼みましたよ…)

各々の想いを胸に秘めて。
明日からは、それぞれの戦場へ向かう。

(2002.09.07)


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