決断
イリス・ザッカリン
レヴァイア王国私兵軍参謀、イリス・ザッカリンは悩んでいた。
先の戦闘での傷が癒え、職務に復帰したとき、既に戦況は取り返しのつかないところにまで来ていた。
帝国軍精鋭部隊による王都への侵攻。
そして劣勢状態の戦場。
現在王都付近にいる味方は君主レナスティーナの部隊のみ。
それに対して帝国軍は4部隊も控えている。
勝敗は明らかだった。
(このまま戦いを続けても犠牲が増えるだけ…しかし、私はレナスティーナ様の部下です。見捨てるわけには…)
そこへ、何かを持った兵士がやってくる。
「イリス将軍、よろしいでしょうか…」
「なにかありましたか?」
「王都近くに展開している帝国部隊からこのような手紙が…」
「手紙…ですか。一体誰が……」
差出人を見て絶句する。
そこに書かれていた名は『ソフィア・マドリガーレ』―『プラチナの悪魔』―だった。
……レヴァイアの民の命を、貴女の命で贖うおつもりはございますか…?
貴女が帝国の軍門に降るのであれば、レヴァイアの民の安全は保障しましょう。
帝国にとっても、レヴァイアの名将を手中に出来るのであれば、レヴァイアの民の安全は安い買い物…
姫さまは…保障しかねますけど…
手紙を読み終えたイリスの手がわずかに震える。
「……………」
部隊の編成を終えた副官が報告をしに来た。
「イリス将軍、出撃準備整いました。いつでも出られます」
しばしの静寂の後、イリスは震える声で答えた。
「………出撃は……しません……」
「なっ…!?」
「部隊は出撃させません。勝敗はすでに見えました…これ以上、あなたがたを死なせるわけにはいきません…」
イリスは悲痛な表情をしつつも、副官の方を向きはっきりと言った。
(…レナスティーナ様、申し訳ありません………ですが…これ以上の犠牲は……)
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