儚き天使

アザゼル+鴉

随分と都合の良い話だと思っていた。
何か裏があると思って俺はそれを受けた。
「スマンナ、上ノ五月蝿イ連中カラノ命令ヲ受ケテモラッテ.......」
育ての親で、俺の師匠同然のディアボロスが出発前に声をかける。
「別に良いさ。裏事情を知っているなら教えてくれ」
俺とディが会ったのは俺が三歳ぐらいの歳。
最も拾ったのはディの同僚幹部のティアマトだった。
「如何する? 潜在能力はありそうだが..........」
ティアマトは潜在能力を見極めるスペシャリスト。
それのお陰で今の俺が居る。
「・・・・・・・・・・上ノ連中二言ッテクレ。私ガ責任ヲ持ツト」
「解かったわ........」
ディのお陰で俺は強くなり、外の世界を知った。まぁ最も最初に知ったのは血で血を洗う世界だが。
だが、俺は色々学んだ。
俺はディを本当の親だと思い育った。
そして、この話は俺がアイツと会って一緒になってそれから俺が16ぐらいの時の話だ。
「目的ハ“天使”ノ捕獲.......ソレガ本来ノ任務ダ」
組織の依頼経由は次の通りだ。
まず、依頼者が組織に内容と報酬を教える。
組織はその任務に的確な人材を選ぶ。
その人材の管理人に依頼内容を伝える。
そして、その人材に初めて内容が知らされる。
そこまでが意外と長い。
「“天使”? ........まさか.....あの天使か?」
俺は天使と言う単語に聞き覚えがあった。
「ソウダ。オ前ガ知ッテイル天使ダ」
その天使の名はオファニム。
何処かの天使らしい.........あんまり詳しくは憶えていないが。
俺と同じくらい有名で戦場で名を馳せている存在。
実力はあくまで噂だが俺とほぼ互角らしい。
通り名は『破滅天使』。
俺より少し幼いらしい......
「上層部ノ連中ハマダ子供ノオファニムヲ捕獲シ、調教、自分達ノ生屍(せいしかばね)二スルツモリノ様ダ」
「上層部はロリコン趣味でもあるのかねぇ....」
「ダガ、マダ子供。コンナ組織デ手駒二ナルヨリ、モット外ノ世界ヲ知ルベキダ」
「・・・・・・・・ホントアンタは優しいよ」
「・・・・・・・気ヲ付ケテナ」
「了解、ディアボロス」
そして俺はオファニムが居る戦場へ赴いた。
無論、オファ二ムも俺と同じく傭兵と暗殺者の顔を持っている。
場所が場所の為それなりに移動に時間がかかったが、ジャスト。
オファニムが仕事を終えた頃だった。
オファニムは山積みになった屍の上で満月を見ていた。
俺の気配と視線に気が付いたのかこちらを向く。
満月の光りで十分に存在、誰なのかが解かった。
「・・・・・・・無慈悲な死神もしくは満月の魂の収集者のリヴァイアサン。何が目的でここへ赴いた?」 冷酷。微動だにしないな。
格好は黒いレインコート。俺と違う色、形の仮面。
手には二刀の短刀。
血は振り払われていた。
「偶然に散歩に出たら天使と遭遇した.........駄目か?」
「冗談には聞こえないな......邪魔な奴は消そう」
「同感だ」
深緑地帯に囲まれているその場所にはオファニムと俺の監視する者が居た。
面倒だ..........
余談だがまだパンドラと会っていないので妖刀戒神は持って無い。ディが出発直前にくれた剣が今の俺の武器だ。
「雑魚共を始末したら?」
「俺とお前の番だ」
「成る程な.......」
言葉少なく会話を交わし、森の中に潜入する。
「うわっ!」
「邪魔だ.............」
「こ、ころっ!」
無駄口を叩く暇があるのなら敵を殺れ。教わらなかったのか? バカ共が。
弱い...........
「・・・・・・・・・・・!」
何かを喋る前に首を斬られ落ちる。
的確に殺すには常套手段だ。
「くっ!」
まぁ、敵の動き次第では...........
「うわあああああ!お、俺のうでっ!」
無残に死ぬこともある..............弱すぎる.........
一通り終えたリヴァイアサンとオファニムが戻ってくる。
「ほぼ、同じかな?」
「其の様だ........」
「さてと......オファニム」
「悪いが私の事はファニと呼んでもらいたいのだがリヴァイアサン」
「なら、それはこちらのセリフでもある。リヴァで良い」
少しばかり長い会話も無くなりお互い斬りかかる。
遠方から見れば火の玉が瞬時に動いている様にも見える。
だが、実際は高速で刃同士が火花を散らしているに過ぎない。
「(早い!)」
「(流石.....!)」
お互いその真価を認め合っていた。
ふと、俺は背後の小さな殺意に気を取られた。
「隙あり!」
「ぐぁ!」
一瞬の出来事だった為か首を斬らずに胸部と脇腹を斬ったファニ。
「まだ.........居る........」
俺は倒れ間際に呟いた。
「え.....?」
俺の耳には僅かに女らしいファニの声が聞こえた。
ヒュン!
矢が放たれた。
狙いは無論、ファニ。俺は何故かファニを死なせたく無いと直感的に思った。
「しゃらくせぇ!」
傷の痛みを忘れ、ファニの左腕を引いて矢を掴み逆に投げ返す。
「ごはぁ!」
ファニを狙った奴を仕留めたのは解かった。だが、そこからの記憶は目覚めるまで無かった。




どれくらいの時間が経っただろうか?
俺の意識は途中でハッキリと目覚めて来た。
「う............痛ぅ.........」
やはり、、まだ痛むな......だが、包帯をして居る事に気が付いた。
誰だ?その疑問は自分にとって信じられない形となって理解した。
「大丈夫ですか?」
「誰だ?........ここは一体?」
「少し.......待ってて下さい.........」
遠慮がちな感じの声の女性はそそくさとその場を後にする。
俺はあらゆる事を考えた。
だが、どの考えも確率は極めて低かった。
ならば........一体ここは何処で先程の女性は誰なんだ?
「失礼します..........」
女性が戻って来た。
「・・・・・・・・・・一体誰なんだ?」
尋ねる。
「傷口を見ます........じっとしててください」
聞こえていないかのように包帯を解き、傷口を確認する。
「・・・・・・大丈夫のようですね.....少し痛いですが我慢をしてください.....」
「ぐっ!」
女性が傷口に何かを塗る。かなりしみる.......
「頼む........一体誰なんだ?」
「・・・・・・・・・」
俺の問いにしばし沈黙する女性。
「ファニです.........」
「え.........?」
信じがたい単語が出て来た。
「私がオファニムです........私の家まで貴方、リヴァさんを運んできました......」
「・・・・・・・・・・そうか......」
如何やら信じる以外なさそうだ。
「何故だ?」
「何がでしょうか?」
「俺は組織の命でお前、オファニムを捕獲、組織に連れて行くのが目的。なのに何故、俺を助ける?」
「・・・・・・・・・助けてもらった人の命を救うのいけない事でしょうか?」
・・・・・・・・俺は今までとんでも無い勘違いをしていたのかもしれない。
冷酷で血を好む殺戮者。俺はオファニムをそう認識していた。
だが、実際は如何だ?女神の様やな優しさで狙っていた者の命を救った。
なんだか情けない気分になった。
「取り敢えず、安静にしてください........でわ......」
ファニが一通り終え、下へ行く。
言いたい事があったがあえて俺は言わなかった。
俺は眠りについた.......
朝.......カーテン越しに朝日が俺の顔に当たる。
眩しい........
「くっ.............まだ....痛いな」
難とか自力で起き上がり、辺りを見まわす。
殺風景だが何処か懐かしい雰囲気が漂っていた。
「あ......おはようございます......」
「・・・・・・・おはよう」
ファニが朝食を持って来た。
「傷口は如何ですか?」
「一応.............な」
大丈夫と言う事を見せる為立ち上がる。
「あ......まだ」
「うお?」
足がおぼつき、ファニの方に倒れる。
「きゃ!」
「おっ!?」
情けない。まだ、完治もしてないのに無理をする......やれやれだ。
「くぅ........大丈夫か?」
「はい.......難とか.........あ」
俺がファニの上に覆い被さり、押し倒したような形になっていた........
しばらく、そのまま時が過ぎて行った。
「あの.......」
「ん......ああ、悪い」
ようやく俺はファニの上から動く。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「「あの.......」」
声が重なり再び沈黙......
「蘭〜朝ご飯だけど〜」
ん?..........何処かで聞いた時のあるような声が........
「あ、お姉ちゃん........」
蘭?ファニの本名か?
如何やらファニの姉か..........しかし、何処かで聞いた覚えがあるような......
「あ」
「あ」
「え?」
俺とファニの姉がお互いの顔を見てはっとする。
「「ティアマト!?リヴァイアサン!?」」
「・・・・・・・・知り合いなの?お姉ちゃん?」
これはこれでヘヴィだ................
ファニ、彼女の実の姉は難とディと同僚の幹部で俺を拾った張本人のティアマトだった。
難とか話は簡単に進み、状況など簡単にお互いの理解が出来た。
「う〜ん、まさか両方の組織がお互いの最凶同士の戦いに賭けをしてたなんて...........」
ティアマト、本名翠鴻沁(すいこうしん)は妹の蘭ことファニから聞いた話を集計して、それが解かった。
「ディは?」
俺は率直に聞いた。
「ああ、ディは五月蝿い上層部幹部を蹴落として、と言うより潰して新しい組織を作ったみたい」
「俺は如何なる?」
「多分、そのまま引き込みじゃないかな?」
「そうか............」
「まぁ、ぶっちゃけ、決めるのは自由らしいよ。蘭も入るか入らないか自由。無論、リヴァも」
「俺はディに付いて行く。それが俺の生甲斐でもある」
「私は.........」
誰もファニの今後を決定する権限は無い。
全ては彼女の自由。
「お姉ちゃん。私.......もう、嫌.........人を殺すのはもう嫌だよ........」
ファニは泣き崩れ、今後の道を決めた。
それからしばらくのことだった。
ティアマトこと、沁は暗殺された。
他の組織にとって手痛いダメージを与え続けていた為であった。
それが組織。これが組織。
ファニは1人になってしまった。たった1人の肉親である姉を無くした........
しかし、ファニは泣かなかった。こんな事がいずれ起きる事を周知で姉と共に暮らして居たのだから。
彼女はとても儚い天使だ。
だが、俺にとっては素晴らしい天使だと思う。

(2002.09.24)


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