覚醒の前兆
アザゼル+鴉
コン、コン
鴉の部屋のドアをノックする女性が1人。
「あの、鴉将軍...私村雲と言います......」
「聞いている」
「呼びに...来ました」
鴉のシチル行きが決定し、村雲は鴉を呼びに来た。
「・・・・・先に行っていてくれ。あとで追い付く。自己紹介もその時に」
「はい.....」
鴉は一歩も部屋から出ようとしなかった。
負傷した時から.......
部屋に引きこもり、食事は部屋に前に置かれ時間になったら回収される。
それが繰り返されていた。
何故? 疑問の声が飛び交う。
だが、鴉のその理由を知る者は数少ない。
鴉の部屋は血の海と化していた.....いや、鴉にはそう見える。
血の海にはバラバラに切り刻まれ、内臓や心臓がそのまま見える死体があった。
どれも親しい人ばかり......
「クククククククククク」
自分の手には切り刻んだと思われる戒神が握られていた。
翌日早朝。
「お呼びで?」
黒いロープを着て、顔を隠した鴉の元側近が近くにより内容を聞き、行く。
「・・・・顔色が優れないですよ」
不意に女性が鴉に語り掛けた。
ファニも来ていた。直前にディによって呼ばれていた。
「これを.........アイツに、パンドラに渡してくれ」
鴉は懐から白と黒に分かれた女形の仮面を出した。
「・・・・・・何故、と問いたい所ですがあえて聞きません。承知しました」
ファニは仮面を受け取りリュッカへパンドラの元へ向かった。
「いくか.......戦場に」
永倉光成将軍が負傷。
入れ違いの様に鴉はシチルに入った。
それはひかるの元にも届き、聖都クレアに向かった。
鴉がシチルへ入り、間も無くの事。
「永倉光成将軍、鴉将軍の紹介により深淵の一刀から異動した冴崎ひかると申します。よろしくお願いします」
「聞いています」
「鴉将軍がご迷惑のかけないようにと申されたので....成るべくご迷惑はお掛けしません。まだ、勉強中の身ですが改めてよろしくお願いします」
ひかるは深々と頭を下げた。
鴉がシチルへ向かった事もちゃんと聞いている。自分も行きたい。だが、今は深淵の一刀の軍師ではない。ひかるは心苦しい状態だった。
「十分に承知してます。こちらもお願いします」
光成とひかるがこれからの話をしようと思った時。
「失礼します」
先の鴉の元側近が2人の元に現れた。
「何用だ?」
「鴉将軍の使いです」
「・・・・・用件は?」
「伝令。鴉将軍からの直々のお言葉で『もし、自分が戻ってしまったら止める事は出来ない』の事です」
「言って居る意味が.....」
光成は鴉の心境、状態が全く理解出来なかった。
「私はただの伝言役。詳しくは鴉将軍に.....」
そう言って鴉の使者は去った。
リュッカ
「パンドラ将軍。鴉将軍の使者と申される方が来ておりますが......」
聖蓮の兵士がパンドラの元に来た。
「鴉さんの? 通して」
今更何様かと思いつつも鴉の使者と言う事で警戒する事無く招き入れた。
「失礼します。鴉将軍の使者のファニと申します.....」
「悪いけど2人っきりにしてくれませんか?」
パンドラはファニの様子から普通では無い事を察知した。
兵士が去り、ファニと2人っきりになったパンドラ。
「で.....鴉さんとはどう言った関係で?」
率直に聞きたいこと。スタイルも良ければ性格も良さそうなファニに対してまず聞きたい事だった。無論、会うのは初めて。
「昔、死神を一度死なせました。そして救われました」
「え?」
有りのままを言うかと思ったが変に解釈されては困ると思い。
「色々あったと解釈していただければ良いです」
「あ......そう」
パンドラは案外簡単に納得した。
「くえ」
ファニの背後からパンドラの聞き慣れた声がした。
ファニは担いでいたリュックを自分の前に置いた。
「きゅ〜」
少し苦しかったのかリュックから出て体を動かすトベリの姿があった。
「うわ〜最近見ないと思ったら....」
「鴉さんが今の状態で最も関係の無いと言う事で私に預けました。戦場に居たら、と言う事で.....」
そう言ってロープを脱ぎ、トベリの頭を撫でる。
「そうだったんですか.......」
パンドラも何を考えているか少し解からないトベリの顔を見てそれを納得、受け入れた。
「くえ?」
それから2人はリヴァの時、今の時に付いて色々話しこんだ。
笑える所も有れば思わず泣いてしまうそうな所も。
時間はあっと言う間に過ぎて行った。
「・・・・・・そろそろ本題に入りません?」
パンドラが言う。世間話をしにわざわざここまで来る必要は無い。それを思って言った。
「解かりました.......伝令。鴉将軍からの直々の言葉で『もし、自分があの時に完全に戻ってしまったら戻れ無いと思う』との事。及びパンドラ将軍にこれを渡して欲しいとの事です」
ファニは懐からあの仮面を出した。
「これは.......如何言う意味ですか?」
「・・・・・・・鴉さんはあの時に戻りかけています。今の状勢が原因で.........」
あの時。
そして、仮面。
これが意味するのは......
「リヴァイアサンに.....戻りかけていると言う事ですか?」
「鴉さんは負傷して、傷が癒えたのですが自室に閉じ篭り状態になったのです」
簡単に聖都での出来事を細かく伝えた。
「それと......戒神を持っていました」
今の戦いになってから戦場に持ち込まなかった、妖刀戒神。
「血に......飢えているのですか?」
「私から何とも.......」
心が痛かった。
もし、あの時、リヴァイアサンに戻ったら鴉と言う人物と過ごした日々が消え、鴉と言う人物が消えてしまう。
戻るのは血に飢えてしまったと思われるリヴァイアサン。
その後には何が残るだろうか?
そればかりは考えたくなかった。
「最後に........もし戻ってしまったら殺して欲しい........そう言いました」
パンドラは仮面の中で涙が出そうになった。もし、そうなれば手が付けれるはそうそう居ない。
何故なら彼は『無慈悲な死神』だから.........
恐らく自分では死ねないだろう。誰かに殺してもらうまでは.......
それが自分だったら........一生、悔やむだろう。
何故、殺した?
何故、救わなかった?
何故、他の人に委ねなかった?
「私では出来ません........もう、闇の世界から存在は消えました。姉の死と共に........」
色々な意味で無理な事だった。
彼を.......鴉を、リヴァイアサンをこの世から消す、殺すのは.......
「・・・・・・・・・戻るかもしれない。なら自分で死ねるか?いや.....出来ない。誰かに殺してもらう以外には.....リヴァイアサンを消せるのは........」
先行していた部隊に追い付き、雲無き夜空を見上げそう言った。
手には鞘に収められた妖刀を手に.........
|