命日
アザゼル+鴉
クレアムーンリュッカ第3周期。
鴉が指揮する部隊、深淵の一刀はその地に立ち、空の下に居た。
「(そろそろ....始まるな.....)」
鴉はふとそれを思った。
鴉の足は自然と黒紅雷の側に来ていた。
「鴉将軍?何処ヘ......」
飛鳥が偶然に鴉を見付ける。
「・・・・・始まる前に知り合いの墓参りに行ってくる。大切な知り合いでな.....」
「・・・・解かりました。お気を付けてください」
「皆にそう言って居てくれ。下手な言い訳は無用だ」
「はい」
「はぁっ!」
鴉はクレアと帝国の国境近い村へ急いだ。
無論、変装はしている。
下手に帝国の国境警備隊に気付かれたら面倒ゆえでもある。
村までかなりの遠い道のりだった。
2日〜3日黒紅雷を走らせた。
山賊も襲ってきた。
急に雨が降ったりもした。
だが、鴉は急いだ。
大切な人の墓参り。
山賊は機転を利かせた自然によって乗り切った。
雨は行く途中の村で凌いだ。
そして鴉は目的地の村に辿り付いた。
「何者だ」
黒いロープを着た者達が鴉の行く手を阻む。
「死を思い.....大切な人の墓参りに来た」
「御久し振りです。どうぞ」
その者達は鴉を通した。
知人のようだ。
黒紅雷をある一軒の家の馬小屋に入れて鴉は本来の目的地へ向かった。
「よう久し振りだな。元気にしてたか?」
行く途中村人から声をかけられる。
「そっちも元気そうだな」
「どうだい? 少し買っていくか?」
売店の女主人から買わないかと声をかけられる。
「少しはまけてくれよ」
行く途中外に出ていた村人達全員に声をかけられ、それ相応の返答をした。
「あまり.......変わってないな」
鴉の一番の幸い。
鴉は行く前に蘭と売っている事すら珍しい桜を購入した。
そしてバケツを持って向かった。
そして村を抜け、森の中に入る。
人の手によって作られた道を鴉は歩いていく。
まだ、変装している。
そして森の出口の光が見える。
其処は眩しいくらいに綺麗と言える場所だった。
出口付近から左の方向に大きな木が見えた。
その側に鴉の目的地があった。
鴉は変装を解いた。
変装した状態じゃあ駄目なのだ。
自分の元妻の墓参りぐらいはちゃんとした素顔でなければ........
墓石は一つではなかった。
隣りにTamat。
その下には
『翠鴻沁 ここに眠る 永久に儚き魂を抱いて』
そして鴉は墓石を用意していたハンカチで丁寧に磨いて行く。
近くの小川から水を汲み、
「少し.....冷たいかもしれないが我慢してくれ.....」
生きているはずもない死者に語り掛ける鴉。
バシャア。
水が墓石に降り掛かり、今までの汚れが洗われる。
再びハンカチで拭く。
2つの墓石は綺麗に磨かれた。
そして鴉は蘭をティアマト.....いや、沁の墓石に。
そして......桜は大切な人の墓石に.......
「・・・・・もう、これないかもしれない......少し覚悟してる。だが、まだ死なない。お前達分までしっかり生きてやる。約束だからな.......」
鴉は手を合わせ二人に言った。
『約束は......守ってよね』
『自分に負けないでね......』
二人の声が鴉の耳に届く。
「ああ......解かってる。俺は.....約束も守る。自分にも負けない。鴉としてリヴァイアサンとしての誓いだからな.......」
鴉はほんの短い一時を過ごし、戦場へ戻った。
クレアムーンの将軍、鴉として........
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