憤怒と大罰

アザゼル+鴉

夜の肌寒い中を駆ける人の姿があった。
「(ここはここで鉄壁の守りね......他国が入ろうとすれば至難の技ね.....)」
帝都ラグナイナ領内に侵入し、兵の数、部隊の展開状態など調査をした女性の名はティアマト。
闇の組織、Memento・Moriの特殊工作員及び幹部として動いていた。
なお誰も依頼などはしていず、これはティアマト独断の調査である。
理由は不明。
彼女の口から語られるべきなのだが......
「早くリヴァのとこに行かないと.....」
ティアマトは翠鴻沁としてリヴァと食事の約束をしていた。
時間で言えば大体20:00〜20:30ぐらいと言った所だろう。
外を歩く人の姿は無い。
急ぎ足でリヴァとの約束の場所へ行く。
ふと足を止めた。
「・・・・・・・・誰!?」
ティアマトは誰かに見られている気配に気付いた。
暗がりから人の形をした者が現れる。
「ククククククククク.......」
ティアマトは思わず構えた。
明らかにこちらに殺意を抱いていたのだ。
それも尋常ならざるほどの.......
今まで感じた事の無いプレッシャー.....
ティアマトは思わず自ら仕掛けた。
笑った.......
ティアマトは自分が誤った事をしたのに気付いてしまった。
時は進み21:00前後。
肌寒い季節に外に出歩く人影は無い。むしろ珍しいくらいだ。
そんな中一人、待ち人が来ぬ人影があった。
「沁......遅いなあ」
友人をティアマトとしてでは無く沁として待つリヴァ。
何時の間にか足を動かし街中を捜し始めた。
捜し始めて30分ほど経ち中央広場のような場所に辿り着くとリヴァは表情を強張らせた。
血の匂いがした故である。
このような場所で普通に血の匂いなんて嗅がない.......
だが、リヴァの鼻は嗅ぎ分けていた。
しかも多量の血......
ふと噴水近くを見ると誰かが立っていた。
匂いの発生源なのだろうか?その人物から漂って来た。
「あの......どうかなされましたか?」
リヴァが声をかける。
その者が声に気付き、振り向く。
「!!!!!!!!!!!!」
リヴァは驚愕した。
その者の陰に血まみれで全裸の女性が横たわっていた。
しかも見覚えのある人物の顔........
「沁!」
状態はかなり酷かった。
人間がやったのか!?と疑うほどだったのだ。
乳房は無い.......いや、正確には噛み千切られていたのだ。
そして手足......潰されていた。
これでもかと言うほどに....骨や血肉が飛び出している。
顔は何とか原型や表情は見切れたが口から出血していた。
沁はこちらに気付いている。だが声を発しない.....まさかと思った。
だが、事実、舌は切り取られいた。
左目からも出血している事から抉り取られたか潰されているのどちらか.......
かすかに震えている。
膣からも出血しており中も傷付いていると思われる。それと同時に白濁した液体も出ていた。
リヴァは何も考えずに構えた。
こいつだ......こいつが沁を......!
本能でそう感じ取った。
だが、自分も震えていた。
正直言って沁の方がリヴァより実力も上だった。
その沁がこのような目に遭わされた........
本能で恐怖を感じとったのだ。
「ククククククク.......坊主......いや、リヴァイアサン。怖いか?」
赤い目で左目が無い男.......
ガルヴァス・ヴァルヴァス。
闇の世界で知らぬ者は居ない猟奇快楽殺人者......これまでのターゲットは必ず人とは思えない殺し方をする事で瞬く間に闇の世界に知れ渡った。
かちかちかちかち.....
自分の歯が震えているのが十分に解かった。
だが、死ぬ......恐かった.......死ぬのが。
ふと沁を見ると......
右目から涙を流していた......そして、右目をウィンクして首を縦に振った。
Memento・Mori内部での『逃げろ』を意味する行動.......
沁は何度も繰り返した。
リヴァが逃げるまで。
咄嗟に戒神でガルヴァスに斬り付き、引いた所を見計らい背を向き逃げる。
「ちぃ! 逃げるのかァ! 卑怯者がっ!」
ガルヴァスの声が響いた。
だが、リヴァは振り向かず逃げた。
それを見た沁は笑顔になり、力尽きた。
そして郊外の森に出て一本の木の前で止まる。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。
心臓の音が何度も耳に入ってくる。
「く.......あ....ああ......」
リヴァの目から少しずつ雫が零れ落ちた。
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
その絶叫は何処までも響いた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
駄目だ。止まらない.....
「あああああ.......あああああ......あ....あ.....くぅ」
あいつが死んだ時すら出た時が無いのに.......
「うぇっ! ゲホッ! ゲホッ! ゲホッ!」
嗚咽がありながらも涙は留まる事はなかった。
「如何して.......如何して......如何して........」
『もし、私が死んだら....リヴァの好きなとこに埋めてね』
もう死んでいるかもしれない沁の声がリヴァの頭の中で響く。
『後ね......蘭のこと......御願いね。リヴァ』
「沁.......如何して........」
見られなかったのだろうか?其れとも死んで欲しくなかったのだろうか?
あの涙が目に、記憶に、魂に焼き刻まれていた。
『私の死様見た時は泣かないで欲しいなあ....何故か解からないけどね』
もう、あの時の笑顔が見れない.....
あいつの死で人間の命は短く、儚いものだと実感した。
だが沁の死に方は.......
リヴァは本当に幼い頃から一緒だった『友』を無くした。呆気無く......
何故か涙が止まった。
立ち上がると自分の影が目の前の木に映った。
振り返ると朝日が目にしみた。
そして、戒神で木を斬り付けた。振り返り戒神を納める。
すると.......
ズ、ズズズズズズ、ズウン。
木を切り倒した。
そして再び広場へ戻る。
まだ、朝日が昇ったばかりなのか人は誰も居ない。ガルヴァスも......
沁の死骸が朝日に浴び妖しく見えた。
上着を被せ、原型の無い手を沁の腹部に添える。
そして持ち上げある場所へ向かう。
一つの無人の教会の二階に上がり、ベットに寝かせる。
そしてMemento・Morio本部へ行く。
「ン? 如何シタ、血ガ服二付イテイルゾ」
「ディ。理由は聞かないでくれ。俺に賞金を賭けてくれないか?」
リヴァは何時にも増して殺意を出していた。
「・・・・・・・良インダナ?」
「ああ」
そして暫くして広間みたいな場所にMemento・Moriの所属している者達が全員集められた。
「みんな......聞いてくれ」
それまでざわざわと囁きが失せた。
「昨日.......昨晩、ティアマトが死んだ」
全員どよめいた。
幹部であり、情報のパイプラインを唯一所持していたティアマトが死んだ。
「・・・・・そこで俺はある賭けに出た。ティアマトを殺した奴をやる為に自ら賞金首になった」
再びどよめき。ディが静かにする。
「そして......Memento・Moriを解体する事にした。無論、ディも承知してくれた」
前に居た者達がリヴァが震えて居る事に気が付く。
「リヴァイアサン様! ティアマト様の仇は.....必ずとってください!」
「我々はそれまで息を殺して待ち続けます!」
「絶対その輩をリヴァイアサン様の手で葬ってください!」
「それまで我々は絶対朽ちません! 何があろうとっ!」
声が次々に上がる。
全員堪えていた涙を流しながら。
「俺はっ! 絶対そいつの首を取ってみせるッ! 必ず!」
こうして、Memento・Moriは表でも裏でも壊滅したと謡われた。
だが、その真実を知る者は......其れを絶対語らない。

(2002.11.03)


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