病そして

アザゼル+鴉

何かがおかしい.....
鴉は何時もと違う自分の体に疑問を持っていた。
何時も行なう日課のランニング。
何時も買い物に行く市場。
だが、不定期に足止めをくらった。
理由は突如の体の震え。そしてその後の視界の乱れ。
自分の体に一体何が起きているか全く解からなかった。
・・・・・・後でアザゼルの所へ行こう。
そう思った矢先。
「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ!」
咳き込む。
思わず口に添えてしまった手に何かが付いた。
「血か.......」
手にべっとり付いている血を見ても鴉は何とも思わなかった。
ただ、自分ももう時期か....本当に呆気無いな....
それぐらいしか思わなかった。
「無様だなあ......鴉」
人を小馬鹿にするような声が突如、降り掛かった。
「何のようだ.....」
その血を隠すように手を握り、声がした方向へ目を向ける。
視界には木の枝に止まっている漆黒の色に身を包んだ鳥、烏が毛繕いをしていた。
「なあに、お前が元気かどうかを見に来ただけだよ......ククククククク.......」
その烏が喋り、羽根から見下すような目以外を覆い隠した。
「主である者を殺して、その力を得た式神の鵠が何のようだ」
「おやまあ釣れないなあ....」
「・・・・・・・・」
「まあ、しかしあの時は人間の雄どもが羨ましかったぜえ....ケケケケケケケケ」
鴉の表情が強張る。
「あの五月蝿い人間の雌が悶え苦しむ姿は男である俺にとっちゃあ快感だったぜ、ケケケケケ。けどよお、あの人間の雌をひいひい言わせたかったのに鳥の俺が出来なかったのは残念極まりないぜ....ま、あの雌の体は美味かったけどな。イヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
この式神の鵠は自らの手で主人の女性を食い殺したのだ。
不意を突いて麻酔を打ち、陣が組めないように指から食い、そして.....
この烏にとって一番の喜びのようだ。人を食う事は....
「おわっ!」
鵠が叫び声を上げ、木の枝から離れる。
「貴様の言いたい事はそれだけか?」
鴉の手には燃え盛る戒神があった。
「(こいつ....炎で戒神を創り出しやがった! 何時の間にこれほどの力を手に入れやがった!?)」
鴉と鵠が会ったのは鴉が賞金稼ぎ達から逃げている時であった。
『よう、兄ちゃん。景気はどうだい?クケケケケケケケケケ.....』
鴉の表情には憎悪が滲み出ていた。
「チッ.....今回は俺が分が悪い様だ。今回は大人しく引いてやるよ」
鵠が振り返り、彼方へと飛び去ろうとした時。
「それと......お前にとって良い事を教えてやるぜ」
そう、その烏は告げた。
「ガルヴァス・ヴァルヴァスを帝国の領内で見たぜ......俺様が見たんだから間違いは無いぜ。じゃあな、あばよ......イヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」
烏は空高く、彼方へと消え去った。
鴉は炎で創り出した戒神を消し、鵠が言った言葉を思い出していた。
『ガルヴァス・ヴァルヴァスを帝国の領内で見たぜ』
「・・・・・・奴の言った事が確かならここでくたばる訳には行かないな」
鴉はその場を後にした。

「あの馬鹿。俺様の言う事を信じるだろうなあ.....自分で悲劇を作り出そうと言う事は全く知らずによぉ......イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」

(2002.11.06)


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