悼み、温かみ
アザゼル+鴉
ただ.....何も見当たらない。
暗かった......
温かった........
ただ.....それだけなのに.....
それを見つめる。
部屋中に行き届く血の臭い。
生涯、一番愛した人......その無残な骸。
腕や足などの四肢は細かく切り刻まれ、復元しようとすれば年月となりうるだろう。
内臓は直視出来ないほどに気味が悪い。そう表現するだろう、常人なら....
刀や剣などの切り傷では無く、直接素手で握り潰したりした感じだった。
夫の死体に触れるのが少し抵抗があった。
けど.....まだ温かい常人が嫌悪するほどの骸に触れる。
直接、この状態まで行われる行為を見たわけじゃない。終わってから初めて見た。
ぐちゃ......くちゅ.....
ぶつ切り状態の内臓に触れる....
ただ私は愛おしそうに見つめる。
肌で感じる温もり、そして感触。
すくった内臓を戻す。
ふと....唯一無事な頭部を見つける。
その顔は既に生気は失われていた.....だがまだ生きているという感じはあった。
だが、人間が胴体から首を切り落とされて生きているはずが無い.....
期待してしまった.....ほんの少し.....彼が生きているということを......
馬鹿馬鹿しい.....そう思った。
頭部を置こうと思った.....
だが、その前に私は彼の唇に口付けをした。
そして近くに置く.....
損失感と絶望感、そして嫌悪感。
損失感は言うまでも無く彼.....
絶望感は今後.....彼無しで生きていけるかどうか.....
嫌悪感はどうして彼が殺されたのか? 理由は自分の家系のせい.....
私が....剣の名家という家柄が無かったら彼は死んでいなかったはず......
自分の存在、自分の家系、自分の血を憎んだ.......
ふと.....目に入った。
彼が携帯していた短刀.....長さは10cm前後。
短刀を鞘から抜く.....綺麗.....素直に思った。
持ち主が息絶えて暫くしか経っていないのにその輝きが増した様にも見える。
彼に一言謝り、内臓の血を短刀につける。
それでもなお、輝きを増した。
そして....それを自分の手に刺す。
痛みは無い......そのまま自分の血肉を抉った。
そしてそれを口にする。
美味しいと感じてしまった.......留めなく溢れる自らの血を見つめ、このまま死んだら彼のところに逝ける。
ああそうか.....自殺しようと思ってたんだ.......
改めて思い、それを見つける。
けど......彼が生きていたらまだ生きて欲しいと言うに決まっている。
だよね。まだ.....ちゃんと言ってないよね......あの子に本当のことを言わなきゃならないのに......
自分の着ている衣服の裾を引き千切り、口と傷つけてない手で縛る。
縛り過ぎた為か痛みが戻ってきた。
そして血肉を抉った手が青ざめていった。
何を思ったか彼の内臓を空いている血肉の部分へ入れる。
そして帯でその部分を縛る。
このまま自己治癒が進めば彼の部分を取り込むことになる。一応、医学知識は有る。
そんなことなど出来ない。けど.....この時ばかりはありえない事をしたかった。
違う.....彼の血を入れて、少しでもこの血を変えたかったのだと思った。
これはこれで良い....自分は間違いなんて犯してない。
彼なら分かってくれる。生きていたら.....
だんだん....目蓋が閉じてきた。出血量が....少し多かったかな?
そんなことを思いながら彼の胸部辺りに顔を沈めた。
血肉と内臓が顔に付着する。良いの......これで......
一度目蓋を閉じる。
今までの思い出が甦る。
本当に.......色々有ったんだなあ......
思わず顔が微笑む。
目蓋が開く.......
其処には先に逝ってしまった筈の彼が半透明で現れた。
彼が手を伸ばした.....
ありがとう.....一緒に連れてってくれて.......
ようやく私は涙を流し、彼の手を取り、もう目覚めることの無い。
目覚めたくない.....心残りがいっぱいあるけど.....彼が側に居てくれるから......戻りたくない。
あの子なら.....分かってくれる。
私と彼との子ですもの......
そして私は彼と共に逝った。
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