告白
アザゼル+鴉(補筆:語り手エリー)
あれから数日経った。
私は『別に良い』と言われた事に逆に恐怖を感じてしまった。
普通ならしばかれる......しかしそれがない。
なんか企んでるっぽい
そう思ってしまう毎日が続いている....
私はリュッカで様々なバイトについている。昔からバイトは得意!
『働かざるもの食うべからず』
そんな諺が当てはまりそうだ。
鴉さんから言われている通り、食事は制限してる.....正直足りない...(泣)
ちなみに静亞さんはレストランでウェイトレスをしています。
サーシャさんは鴉さん同様鍛冶に興味を持ち、
勉強&バイトをこなしながら鴉さんの鍛冶の師の下で頑張っているそうです。
そんな鴉さんですが......何をしてるんでしょうか?
サーシャさんと共に鍛冶師の所に行くのは見ているんですが.....
何をしているかサッパリ(^^.......(涙)
毎日のように外出し、何処で何をしているか検討不可能。
一度つけてみたのですが.....途中で撒かれました。
嗅覚は女性の場合にしか強くならないとは!
「って.....何言わせるんですか? これじゃあストーカーです」
いやそうだと面白いでしょ?
「駄目だ.....抵抗しても無駄だ.....(泣)」
とまあこんなやりとりは置いておいて........
やはり気になってしまった。
ので朝から鴉さんの動きを観察する。
朝、誰よりも早く起きて朝食の用意をする。
私は朝から何かをやってると思い、起き続けるが......無念。寝てしまった。
むぅ.....次こそは....必ず!
私はこの日、偶然にも休み(全部のバイト)だったので徹底的につけれる! うし。
朝食が終わって静亞さんとサーシャさんがバイトに出かける。
鴉さんと二人っきりになった。さて......何をしようかな?と考えている矢先。
「パンドラ.....ちょっといいか?」
「ほえ?」
いきなり鴉さんが声をかけてきた。まさか.....ばれた!?
「仮面.....外してくれないか? 素顔のお前の顔を見たい......」
私にとってはどうでもいいこと。けど、鴉さんにとって重大なことだとその時の私には思いつかなかった。
「別に......良いですけど.....」
そう言って私は仮面を外す。今日は、化粧などはしていない。
「・・・・・・で、なんですか?」
私が素顔を晒し、鴉さんの顔を見た瞬間.....
鴉さんが急に顔を近づけ、私に口付けをした。
突然のことだったので私は戸惑っていた。
鴉さんは私の頬に手を添え、舌を入れてきた。
流石にそれには驚き、アッパーを入れる。
そのアッパーを受けて鴉さんが離れる。
「何をするんですか!」
正直、キスされて舌を入れられても平気な方なんだけど(気にはするが)何をしたいか全く分からなかったのだ。
意味もなくキスをされるような間柄ではないはずだ。
・・・・・・・・・・多分
「いや.....最後に素顔のお前にしたかっただけだ.....」
「え?」
最後? 何? 如何いう意味?
「お前が俺のことを如何想っているかお前自身しか分からないだろうけど俺はちゃんと一人の女として好きだからな」
え? それって.....愛の告白とかいうやつ?まさか(^^)
「そんなのが遺言ですか?だったら約束してください。何れ私と旅をしてください。最期の思い出として(ぼそり)」
私は冗談半分で言った。
鴉さんがこんなちっぽけな遺言なんか残すわけ無いし、
そう簡単に死ぬ人じゃあないのは私が十分知ってる。
私は鴉さんと.......鴉さんとは唯一の親友ですから。
「そうだな.....約束だ。何れ.........お前と旅をする」
鴉さんがニッコリと笑う。
「絶対ですよ。約束破ったらとんでもない目に会うことぐらい分かってますよね?」
「ああ、絶対だ。お前のとんでもない目は御免だからな」
鴉さんが苦笑いをする。
私はどこかで疑っていたのかな? 唯一の親友を。ちょっと馬鹿馬鹿しかった。
私はこの後追尾を予定していた。でも....もう必要ない。
追尾の予定を全部消して、のんびりと一日を過すことにした。
ある日、幾ら時間が経っても鴉さんが帰ってこなかった。
次に朝になっても.....
その次に朝になっても......
幾ら待っても帰ってこなかった......
今になって鴉さんの言った『最後』......これは本当の事かもしれないと思った。
そして....私の鴉さんへの気持ちが分からなくなっていた。
・・・・・・・・暫く鴉さんが帰って来ない事に静亞さんもサーシャさんも心配そうだった。
ある日、赤竜の家の使いと名乗る人がここ、鴉さんの家を尋ねた。
『赤竜迅、赤竜阿佐南、赤竜鵠、赤竜源帥の4名と赤竜の実働部隊およそ200人前後が死亡。
赤竜鴉が関わっている可能性がある』
簡単にまとめればこう告げた。
静亞さんは一度家に戻ると言い、家に戻った。
私は分かっていた。
無論、静亞さんもサーシャさんも。
鴉さんが確実に関わっている事を。
調査の結果、鴉さんのお母さんの阿佐南さんは自殺と断定、
お父さんの迅さんは双子のお兄さんである鵠さんに殺されたことが判明した。
――――――――――そして、
鵠さんと祖父に当たる源帥さんと赤竜の実働部隊の人たちは鴉さんが殺した事がわかった。
鵠さんは必然的とも言えるらしい。何故なら赤竜家の掟がある。
もし、兄弟が出来たらどちらか力のある方を赤竜の継承者にすると言うなんとも腹ただしい掟。
だが、源帥さんと実働部隊の人達までも殺した理由は解からなかった。
一応、何があったかを聞く為、鴉さんを大規模な捜索が開始された。
それを指揮するのは静亞さん。
私とサーシャさんは何も出来ず、ただ結果を聞くだけ。
これほど悔しい思いは無かった。
自分の手で見つけて自分で問いただしたかった。
鴉さんは下手をすれば謀反人とされ、処刑される。
それだけは何としても避けたかった。
鴉さんの捜索が始まって1週間ほど経った時の事。
サーシャさんは『気にしたら負け』などと言いぐっすりと眠っている。
本当は気が気じゃないと思う。
私はというと、今晩は何故か特に眠れなかった。
夜の散歩に出た。
夜風が当たって心地良い。
あ
『何かが起きる』
靡く風は、そんな雰囲気を醸し出していた。
背後に誰かの気配を感じ振り向こうとする。
「振り向くな......」
「鴉......さん?」
「こっちを....見ないでくれ。頼む」
少し血の臭いがした。
声からしても鴉さんだとハッキリ解かった。
私は鴉さんに言われたとおり鴉さんの方を振り向かず前を見続けた。
「一体何処をほっつき歩いていたんですか! こっちは散々心配しましたよぉ!」
このまま不満をぶちまける前に鴉さんが言葉を放った。
「話には聞いてるはずだ......」
やっぱり.....そうなのですね.....
「父さんと母さん以外....兄さんの鵠と祖父の源帥、そして赤竜の実働部隊の約200人を俺が殺した.....」
「――――――――どうしてなんですか?」
溜息を一つ、それで落ち着いた。
「お兄さんの鵠さんの事は掟のせいだと大方予測はしてますケド、
それ以外の方達を殺す理由に心当たりがありません」
鴉さんが黙り込む。
沈黙に疲れ「何か言ってください!」と問いかける前に鴉さんが。
「源帥と源帥を信仰する連中は....兄さんの事を嘲笑った....死ぬ間際でも....母さんの事を心配した兄さんをだ!」
あ......何となく....分かった気がする。
―――――鴉さんの話は続く。
鴉さんの傭兵時代、一番の親友であった沁(ティアマット)さん.....
彼女の死についての真相が、今回の一件に関わっているらしい。
私が聞いた話だと、
彼女を殺したのは迅(ディアボロス)さんで、鵠さんが催眠術をかけて殺させた。
しかし、実際には鵠さんではなかった。
源帥さんが迅さんに催眠術をかけて彼女を殺させたのだ。
理由は闘争本能を引き出す為らしい。
無論、そんな事をしても引き出せる筈が無い。
ただ、彼女の存在が邪魔だった。
最近明らかになったことだが、彼女は赤竜家に関して独自に調査を行っていた。
帝国の領内には赤竜とは浅からぬ関係を持つ者達が大勢居た。
それ故、彼女なら調査を進めることは難しくなかった。
もしだ。もし源帥さんの薬物などの売買が彼女に知られたら?
そして鴉さんに伝えていたら? 無論、父親である迅さんの耳にも入るだろう。
そうなれば源帥さんはたちどころに立場が危うくなる。
ならば、知られる前に抹殺するまで。
そして源帥さんは迅さんに催眠術にかけ、彼女を殺させた。
―――以上が、沁さん殺害の真相らしい。
・・・・・・・・・・・そこまで知った鴉の中で何かが切れた。
呼び起こしてはいけない者を呼び起こしてしまったのだ。
簡潔に言えば,源帥は鴉の逆鱗に触れ,逆に寿命を縮めたのだ。
それが源帥と赤竜の実働部隊の殺害の動機であった。
鴉さんの説明が終わり、再び沈黙が2人を包む。
「何で....逃げてるんですか?」
もっともな事を問う。
これまでの事、鴉さんが知っている真実述べればいい。
しかし何故それを述べず逃げるのか?
「まだ....終わってない事があるからだ」
私は更に問いかけようとした。だが、思い留まる。
何を言っても答えてくれないだろう。
お互いの事は良く知っている。それぐらい簡単に想像がついた。
「やっぱり....これはお前が持っていてくれ」
私の前に鴉さんがあの仮面を置いた。
「ついでにこれもだ」
裏返った仮面に紅と蒼の雫状のピアスを置いた。
紅い方は初めて見た。
「これは....?」
「前の嫁さんと俺が付けてたもんだ。今となっては未練がましい物だけどな」
結婚....してたんだ.....
何故か軽く受け止めてしまう。これも初めて聞くのに、何故か。
「お前にとっては不必要かもしれんが.....持っていてくれ。俺の大切なもんだから」
「これから死にに逝くようなことを言わないで下さい。ちゃんと大切にするかどうかわかりませんけど....」
本当に死にに逝くつもり?
「なぁ.....パンドラ.....」
「はい?」
嘘ですよね?
「目.....瞑ってくれないか?」
「・・・・・瞑りましたよ」
約束しましたよね?
「・・・・・・・・」
「ん........」
『私より先に死なないで』って.....
もう、置いてゆかれるのはイヤだから......
「・・・・・鴉さん?」
虚空の闇からは誰も返事をしなかった。
氷月の手には裏返った白と黒に半々ずつ彩られた女形の仮面、
紅と蒼の雫状のピアスが残った。
鴉は影も形もなく。
ピアスは月光に煌めき、月夜に映えていた。
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