夢、或いは追憶

キロール・シャルンホスト

夢を見た。
新兵の頃の、仕官学校時代の、歩兵部隊部隊長の頃の、そして2年前のあの時の夢を。

 無我夢中で剣を振って生き残ろうと必死だった新兵の頃の夢は無味乾燥な物だ。
戦争といっても小競り合いにしか参加したことが無かったのだ。
今にして思えば大して波乱に満ちていたわけでもない。
それでも、家に居る時よりははるかに充実していたように思う。
・・・家族は嫌いではない。
弟は可愛いものだし、父母に対して不満がある訳でもない。
それでも、若かりし頃の私は(今も変わりはしないが)戦場を求めてしまったのだ。
あの頃は、ただ鍛錬と戦いにのみ生きていた。

 仕官学生時代のものは、新鮮な驚きに満ちていた。
政治、経済が軍事に深く関わっていることを理解したのもあの時だった。
それまでは、目の前の敵兵を殺すことが戦争だと理解してきたが
その認識が甘いことを突きつけられた気分だったように思う。
あの頃得た知己は今でも役に立っている。
生憎、上層部にまで誰も達しては居ないが・・・
今でも奴らとは飲みに行くこともある。

 部隊長になった頃の夢。
軍人として最も長く在った時間。
多くの者の命を預かる責任は、己の肩にずっしりと圧し掛かった。
今は、それ以上に重い責任がついて回るが・・・・
この辺りの夢ともなると生々しく、鮮明に思い出したくも無い。
忘却の淵に捨て去りたい物だ、せめて、夢の中だけでは。

 2年前・・・思い返す必要性は無い・・・・
感傷などに浸る気も無い。
古の言葉で言うなれば「賽は投げられた」だ。
・・・だが、奇妙な感傷と共に歓喜が伴なうのも事実。
あの男・・・・
奴と戦えるのだ、戦場で。
それは・・・・喜ばしいことなのだろう。
少なくとも、戦の果てに至ろうとする自分にとっては。

・・・・・さあ、このまどろみから覚めよう。
戦が始まるのだから・・・・なぁ、キロール・シャルンホスト・・・・・・
<了>

(2002.09.12)


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