コロシアイ

コマ・スペルンギルド

「ぐあ・・・っ!」


ドシャアッ!!
派手な音を辺りに響かせ、僕、コマ・スペルンギルドは吹き飛ばされて地面を転がる。

「ぐぅ・・・っ!」

右腕に2本、見慣れない暗器―確かシュリケンとか言っただろうか―が突き刺さっていた。
片膝をついたまま、腕に刺さったシュリケンを強引に抜き取る。
溢れ出る血を押さえつつ、視線を元に戻す。その先には・・・帝国の将軍が一人。


「ほぉ〜、あんだけの数の手裏剣やったんに、喰らったんはたったの2発かい。
 アンタ、なかなかやるやないけ」

戦場には場違いとも言えるような明るい口調で男は言う。

「そっちこそ・・・。アータ・・・フィアーテさん、でしたっけ」
「おっ、もう覚えてくれたん? 嬉しーわぁ。
 そーいや、アンタの名前、まだ聞いてへんかったな? 教えてくれへん?」
「・・・コマ・・・スペルンギルド」
「ふーん。そういや、その編み笠は取らんのん?」
「僕、シャイなモンで♪」
「あっはっは! アンタおもろいな♪」
「そりゃどーも♪」
「殺さなアカンのがもったいないわ。ま、アンタの事は覚えとくわ。
 アンタ、なかなかおもろかったで!」

言うが早いか、フィアーテは手にしたロングソードで斬りかかって来た。

「くっ!」

それを確認した僕は、一歩後ろに飛び退いて氷の盾を作り出し、
同時に空中に向かって魔力を送る。

「無駄や! アンタの攻撃はもう見切っとる!」

ガキィン!

フィアーテの一撃をなんとか受け止め、つばぜり合いのような格好になる。
が、先に受けた傷のせいで力が入らない。

「うあっ・・・くぅ・・・!」
「往生際悪いなぁ・・・大人しゅうしとけば楽に死ねるんやで・・・?」
「悪いけど・・・僕はまだ死ねない・・・。会いたい人がいるんでね・・・!」
「ほぉ・・・? けど、そないな甘い事言っとるようじゃ、アンタ長生き出来へんで・・・!」
「それは・・・どうかな・・・!?」

と、その時。

ポツッ・・・。

「ん? 何や? ・・・雨?」

突如空から雨が降ってきた。
しかし空には雨雲一つ無い晴天が広がっている。

「まさか・・・!?」
「もう・・・遅いッスよ・・・☆ミ」

いきなり局地的な豪雨が襲ってきた。
更にその雨は、フィアーテの周りにしか降っていない。

「ちぃ、なんやコレ!?」

と、僕はその隙を逃さずにつばぜり合いから抜け出し距離を取る。
更にトドメに、周囲に魔力を飛ばした。
途端に、辺りに濃霧が立ち込める。

「この雨といい霧といい・・・アイツの仕業っちゅーわけか・・・。
 ただの氷魔法使いかと思うとったが・・・こんな事も出来たんかい」

豪雨と濃霧が晴れた頃には、コマの姿はどこにもなかった。

「ホンマにおもろいやっちゃで。機会があったら、またやりたいわぁ」

剣を鞘に収めつつ、フィアーテは呟いた。


一方その頃。
何とか作った隙をついて、僕は脱兎の如く逃げ出していた。
自分の陣営はすぐ近くだ。

「これが・・・殺し合いか・・・」

戦闘してみて分かった。
あの人は完全に僕の実力を上回っていた。
あのまま闘っていたら、完全に僕は殺られていただろう。
人を殺した事がある者とない者の差、か・・・。

それにしてもイチかバチかの作戦だったが、上手くいってラッキーだった。
雨や霧を作るといった能力は、元々僕にはない。
以前水使いのヴェルナ将軍と模擬戦をやった時にやられた事を
そのまま真似してみたのだが・・・。

「まだまだ僕の力も発展途上なわけね・・・」

不意に、先の戦いで受けた右腕の傷が疼いた。

「っつ〜・・・・・。あの人とは、二度と戦いたくねぇや・・・」

(2002.10.06)


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