それは儚き死合いの果てに

コマ・スペルンギルド

「がっ・・・はぁッ・・・!」

敵の攻撃を脇腹に受けて、僕―コマ・スペルンギルド―は血反吐を吐いた。
しかしグッと歯を食いしばり、魔力で作った氷の剣を一閃する。
敵はなんなくそれをかわし、後ろに下がって距離を取った。

ドシャ

反撃を仕掛けたまではよかったが、バランスを崩して僕は地に倒れ伏し悶絶する。

(ぐ・・・うッ・・・。・・・ヒビいったなこりゃ)

右脇腹に走る鈍痛から察する。この痛みならば、1本程度では済んでいないだろう。
ダメージの残るあばらを押さえつつ、敵―空翔三郎―を見やる。
自分もそうだが、およそ戦場には不釣合いな軽いノリ。
そしてそれとは裏腹の恐ろしい戦闘力。
先ほどの一撃も、己の肉体によるただのボディブローだった。
繰り出される攻撃は、こちらの氷の盾すら平気で砕き割る。
武器も使わずにこの攻撃力とは、帝国の将軍は化け物ばかりか?
とりあえず応急処置として、やられた部分に薄氷の盾を仕込んでおく。これで少しは安全だ。
といっても、元々防御の効かない相手なので、こんなものは気休めに過ぎないのだが。

「さて、まだやんけ?」

空はにじり寄りながらそう言った。

「大人しゅうしときゃあ楽に死なせたんぞ」
「・・・」

僕は思考を巡らせる。
しかし結論は本当にあっけなく出てしまう。
彼我戦力差などからはじき出した、この戦闘の勝率は・・・限りなくゼロ。
そうと分かれば、こんな修羅場はさっさと逃げ出すに限る。
死んでしまったら・・・メイリィさんには会えないのだから。

と、以前に使った手で逃走を図ろうと右手に魔力を込めたその時。

「ああ、先に言うとくけど、逃がさんからな?」
「い”っ?」
「お前さんの手はフィの字から聞いとる、よう逃げるそうやの。
 が、そげなんさせんと叩いたがウチとしては楽んなるからなぁ」
「・・・ちぇ・・・」

思わず舌打ちしてしまう。
こっちの手がばれてしまっていては、これでは逃げられそうにない。
となると、残された手は・・・。

「さて、これで後ろも大丈夫かね」
「は???」
「ん、気にすんな。お前さんは今から殺すし」

そう言って悠然と近づいてきたかと思うと、空はいきなり右の回し蹴りを放つ。
不意をつかれた僕は、間一髪後ろに飛びのいてそれを交わす。
が、空はなおも右ストレートの追撃。
僕の氷の剣が叩き折られた。

「グッ!」

なんとか反撃しようと試みるも、それも敵わない。
更に体勢を崩した僕の顔面に、トドメとばかりに二つ目の右フック。
これはかわせない。
と思ったら。
完全に僕の顔面を捕らえる直前に、右フックが止められる。

しまった、フェイント・・・ッ!?

本命は左のボディブロー。つまり、さっきダメージを受けた、右の脇腹。
今度こそかわせない。
防御も効かない。
ならばいっそ攻撃だ!
一瞬のうちにそこまで考え、魔力を弾けさせる。
と、次の瞬間、空の左拳が寸分違わず先ほどヒットさせた場所にめり込んだ。
パリーンという音と共に、仕込んでおいた薄氷の盾も簡単に粉砕される。
その次に聞こえてきたのは、自分の肋骨が粉砕される音だった。

(ぐっは、3本はイったか・・・。でもッ!)

僕の身体から、空に向かって無数の氷弾を飛ばす。
超至近距離からの拡散氷弾、僕の奥の手だ。

「うおっ!?」

さすがにこの距離ではかわせはしない。
まともにほぼ全弾命中し、空は吹っ飛んだ。


「・・・っつ〜・・・なんとか上手くいったか・・・」

右脇腹を押さえつつ、僕は言う。
痛みに耐えつつ、急いで空の様子を確認する。
大の字に倒れたまま動く気配はない。・・・倒せた?
これで倒せなかったら、こちらに打つ手はない。
あばらは確実に3本は折れているはず、出来れば寝てて欲しいものだ。

「おお、イテェ・・・」

が、空はこちらの淡い期待を吹き飛ばすかのようにむくりと起き上がる。
氷弾によって傷ついて全身大流血、それなのに、全くなんともないような立ち居振舞い。
あの怪我からして、効いてないわけがないのだが・・・。

「うっわ、元気マンマンじゃねぇかよ・・・。マジで効いてないのか・・・?」

これで僕に打つ手はない。
もうダメかと思ったその時、空はいきなりこちら背中を向けて自分の陣へと歩き出す。

「・・・え、あれ?」

空の思いがけない行動に、思わず素で驚いてしまう。

「あん、何?」
「トドメ・・・ささないんスか?」

その問いに対して、空は背中を向けたまま、左手を振りながら答える。

「んー、まあケガもしたことやし帰って酒飲んで寝るわ」
「はぁ???」

ワケが分からない。
あれだけ殺る気マンマンだったのに、この変わり身の早さ。
まさか二重人格・・・ってそんなわけないか。

そんな事を考えているうちにも、空はその場から歩み去っていく。
と、突然立ち止まり、

「お、そうそう」
「???」

空はやはり後ろ向きのまま、僕に言った。

「お前さん、メイリィ嬢ちゃん狙うとるんやろ?
    そんにゃあオレも含めて後3人は倒さなあかんでー」

それだけ言うと空は自軍の陣の中へと消えていった。
それを呆然と見送り、僕はポツリと呟く。

「って事は、4人も倒さなきゃならんのかい・・・」

そういうと、一気に崩れ落ちてしまう。

「やっぱ帝国の将軍は、皆バケモンだぁ・・・」

(2002.11.05)


でも、実際のところ、どうなんでしょう?

年表一覧を見る
キャラクター一覧を見る
●SS一覧を見る(最新帝国共和国クレア王国
設定情報一覧を見る
イラストを見る
扉ページへ戻る

『Elegy III』オフィシャルサイトへ移動する