心の準備

コマ・スペルンギルド

「コマ将軍」
「ん?」

帝国の朝霧隊を撃破する事に成功したその日の夜。
最も信頼している兵5,6人が、仮設した僕の天幕にやってきていた。

「お疲れ様でした。何とか勝てましたね」
「ん、そうだね〜。けどまぁ、かなりのヤツらを死なせちまったけど・・・」
「・・・それは気にしない方がいいですよ?」
「ああ・・・」

そうは言っても、やはり自分の我が侭で人を死なせてしまった事に対する罪悪感はぬぐえない。
俯いてその事を考える。心の中で、死んでいった連中に頭を垂れ、僕は兵士に質問を投げかけた。

「所でさ・・・」
「何ですか?」
「あの・・・えっと・・・」
「・・・捕虜の事ですか?」
「・・・うん。何とか見つけられたんだろ?」
「ええ。最前線の方に展開していた兵が彼女を発見しました。
 敵将と共に撤退しようとする所だったらしいのですが、出来るだけ丁重に捕虜にしましたよ」
「そう・・・。怪我とか・・・してないかな・・・?乱暴な事はしてないよな?」
「そこは大丈夫です。将軍の事は、兵士一同分かってますからね」
「そっか・・・。・・・彼女は、今どうしてる?」
「一応兵士二人を見張りにつけて、専用の天幕に居てもらってます」
「やっぱ・・・監禁?」
「いえ、彼女は元々ただのメイドですし、逃げ出される心配もないだろうと、拘束もしてません。
 普通にしてもらってますよ」
「そっか・・・」

そこまで聞いて、僕は兵士達に向かって頭を下げる。

「・・・ありがとうな」
「ちょ、ちょっと将軍!?」
「将軍が兵士に頭下げるなんて聞いた事ねぇですよ?」
「いいんだ・・・。ありがとう・・・ホントにありがとうなお前ら・・・」

兵士達から苦笑が漏れるのが聞こえる。
しかしそれは、呆れてのものではなかったように僕には思えた。

「あ、それともう一つ・・・」
「ん?何?」

兵士の声に反応し、僕は頭を上げた。

「ウチらの部隊のすぐ近くに、帝国の部隊を複数補足しています」
「うん、それは僕も知ってる」
「手負いの我が部隊をさっさと撃破しておこうという事でしょうね。つまり・・・」
「つまり?」
「彼女に言いたい事があるなら、時間はあんまりないですよ(笑)」
「('Д ̄;;;;;;;;;;;;;;;;;;」
「ほほう、つまりそれは・・・(笑)」
「ああ、そーなるな(笑)」
「ちょちょちょ、ちょっと待て(汗)!
 確かに時間がないのは分かるが、ぼぼぼ、僕まだこここ心の準備が・・・(爆)」
「この期に及んで何言ってるんですか(笑)!」
「男なら男らしく、言う事は言わないとねぇ(笑)」
「むぅ・・・」

グゥの音も出なくなってしまった・・・。
チクショウこいつら、他人事だと思って盛り上がりやがって。
なおも勝手な事を口々に言うこいつらを指差しつつ、僕は叫ぶ。

「ええぃ、さっさとメシの用意しやがれッ!とりあえず一番豪華なメシにしろよッ!」
「へーい(笑)♪」
「出来たら僕んトコと彼女のトコにも持って来いッ!そして食えッ!騒げコノヤロウッ!」
「分っかりました〜(笑)!」
「それじゃ、俺ら行きますね〜(笑)」
「将軍、ガッツです(爆)」
「男なら押しの一手ッスよ(爆)?」
「結果は後で聞かせてくださいね(笑)?」
「散れッ!散れお前らッッッ(爆)!!!」

いい加減氷魔法でも喰らわせたろかと思った瞬間、全員クモの子を散らしたように逃げていってしまった。

「ったく・・・」

溜め息を一つつく。
急に静かになった天幕の中で、僕は思いを巡らせた。
僕の部隊はすでに400人弱。帝国の部隊の攻撃を受ければ、間違いなく壊滅してしまうだろう。
それはつまり・・・自分が死ぬ可能性もある事を意味する。というか、部隊が壊滅すれば無事で済むはずがない。
折角会えた彼女に何も伝えられないまま死ぬなんて事はゴメンだ。

「確かに、時間はないよなぁ・・・」

思わず独り言を言ってしまう。
しかし、本当は分かっているのだ。
自分が取るべき行動は一つ。後必要なのは覚悟と勇気だけ。

僕は懐に忍ばせていた小瓶を手にとって見つめる。
それを握りしめながら、ポツリと呟いた。

「願わくば、僕に一欠けらの勇気を・・・」

(2002.11.17)


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