帰郷
コマ・スペルンギルド
コマさんと別れた私は、すぐに味方の部隊へと合流した。
近くにいたアリサ将軍の部隊は暖かく私を保護してくれ、
無事・・・とは言いがたいのかもしれないが、一応は戻ってくる事が出来た。
少し休息を取った後、後退する部隊と一緒に私も一旦クレアを離れ、帝都へと戻った。
大変な目にあったのだから、帝都に帰って少しゆっくりしろと言われたのだ。
多分、アリサ将軍の計らいだったのだろう。
普段の私なら、多少無理をしてでも最後まで戦場に残ったんだろうけど・・・。
私の行動を変えたのは、あの人の言葉・・・。
「出来たら従軍するのはもう辞めて欲しい・・・」
私はどうするべきなんだろう・・・。
本来私はただのメイド。普通なら前線にいる事は場違い。
けれどこれは、皇帝陛下直々の命令・・・。
私は・・・どっちにいる方が正しいの・・・?
今思えば、その答えを探すために、帰ってきたのかもしれない。
シチルに着いた。
私はここで補給を行う部隊と別れ、護衛の兵士とともに、馬車で帝都へと向かった。
特に急ぐわけでもなく、ゆっくりと馬車を飛ばした。
半日程度揺られて、帝都に到着。懐かしい・・・。ずっとここを離れていたからな・・・。
まずは皇帝陛下に報告に出向いた。
事のあらましを告げると、陛下は「ご苦労だったな」とだけおっしゃられた。
陛下の口からそんな言葉をいただけるなんて・・・少し驚いてしまう。
退室しようとすると、陛下から意外な一言。
「しばし実家に戻ってゆっくりしていろ」
お暇を貰っちゃった・・・。
先の疑問を考える時間が出来たみたい。
そう言えば、両親にも随分会ってないし。
皇帝の間から出ると、数人の兵士が私を待っていた。
皆私と変わらないような年齢の人たちばかりだ。
私はいきなり手を引かれ、皇帝の間から離れたところまで連れて来られてしまった。
「ど、どうしたんですか皆さん?」
ビックリして問い質すと、いきなり皆は涙を流しながら、私に詰め寄ってきた。
「メイリィちゃ〜ん! 今回は大変だったなぁああああッ(号泣)!!!」
「えっ?」
「だってメイリィちゃんッ、あの悪名高いコマ・スペルンギルドに捕まっちゃったんだろッ(涙)!?」
「えっ、は・・・はい・・・、まぁ・・・」
「くぅぅッ! って事は・・・ヒドイ事とかされたんだろッ!?」
「そうそうッ! コマ・スペルンギルドは、世に聞こえし大変態だからな! 捕まってただで済むはずがねぇ(血涙)!」
「あ・・・あの・・・?」
「やっぱ・・・足プレイとかさせられちゃったのかぁぁああぁぁぁッ!?」
「あああッ! あの変態魔法使いめッ! 俺たちのメイリィちゃんになんてことをッ(号泣)!!」
「ちょ、ちょっと・・・」
「あのクサレ魔法使いがッ!今度会ったらタダじゃおかねぇぞッ!!!」
「よし皆ッ! コマ・スペルンギルドをぶっ殺すために、今から特訓だッ!!!」
「おお〜ッ!!!」
皆私の話なんて聞いちゃいない。
口々に、殺すだの倒すだの言って、勝手に盛り上がっている。
ちょっと皆さん・・・ちょっと・・・。
「ちょっと待ってくださいっ!」
「うおっ!?」
自分でもビックリするような声を出して、皆を制する。
「そんな事されてませんよ・・・すごく丁寧に扱われてきました・・・」
「う、ウソ?」
「ホントですっ!コマさん・・・そんなに悪い人じゃありませんでした・・・!」
「ななななななな・・・」
「メイリィちゃんが・・・メイリィちゃんがぁ・・・(涙)」
「メイリィちゃあん!? なんであんなヤツの事かばうんだあッ(血涙)!?」
「えっ・・・」
そう言われてみれば・・・なんでだろう・・・。
敵の将軍の事なのに・・・なんでこんなに必死になって否定してるの?
「あ・・・あの・・・」
なんとか弁明しようとしたけど、何故か言葉が出てこない。
と、その時。
「おおぃ!」
一人の兵士がこちらに走ってきた。
どうやら伝令兵らしい。
息を切らせながら急いで向かってきた事から察するに、どこかの戦局が、大きく動いたのかもしれない。
「どうしたんだ、そんなに慌てて?」
「おお、速報だぜ? クレアムーン方面なんだが・・・」
「ふむふむ?」
「我が軍の快進撃はなおも続き、クレアムーンの陥落は目前。
それとクレアムーンのコマ・スペルンギルドが、フォルクス将軍の部隊の攻撃で壊滅、
コマ将軍は激流の中に落ちて行方不明だとよっ!」
「おお〜!!」
「やったぜ〜!!」
周囲ではやんやの大歓声が巻き起こる。
けれども・・・私の中に湧き上がってのは全く別の感情。
トクン・・・。
胸が締めつけられたように苦しい・・・。
「ん? どうしたメイリィちゃん?」
「えっ!? いえ・・・別に・・・」
呆然としていた私に向けられた問いを、慌ててごまかす。
コマさん・・・生きてますよね?
私・・・待ってていいんですよね・・・?
沈痛な面持ちで立ち尽くした私の想いは、これからどこへ行くのだろう・・・。
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