誇りと信念と

永倉 光成

−シチルの街北西・クレアムーン国 防衛線陣地−
「ちょっといいスか?」
「コマ将軍。如何なされた?」
光成の本営に、後方部隊の指揮官であるコマ・スペルンギルドが訪れたのは、
エアード部隊が出撃した翌日であった。
「ん、ちょっと。エアードさんトコの出撃って、永倉将軍が何か言ったんで?」
「いや。私も彼の部隊が動き出すまではまったく知らなかった。
 エアード将軍の独断ですよ」
エアード部隊「蒼風」は、防衛線の前線を光成麾下の第3部隊とともに
構築していた。・・・のであるが、先頃他の将軍に伝えることもなく
無断で出撃、シチル西の山岳の麓に陣を張っていたのである。
「それじゃあ、援軍は?」
「いえ。戦力的に心許しません」
「でも援軍送らないと、包囲でもされたらいくらエアードさんとはいえ
 タダじゃ済まないッスよ?」
光成は僅かに顔を曇らせ、しかしすぐに能面に戻す。
「・・・確かに。しかし、各将軍に与えられた権限は裏返せば責任です。
 聖都クレア防衛をより確実に遂行するためには、これ以上一兵たりとも
 減らすわけにはいきませぬ」
「つまり、蒼風だけでなんとかしろっつー事で?」
「無論です。あと2000、兵がいれば別ですが、現状では妥当な判断でしょう」
「状況によっちゃ、僕も前に出ますよ・・・?」
おもむろに眼鏡を外し、布でレンズを軽くふき取りつつ−
「権限からは問題ありません。が、将軍としての立場からは、2000の騎兵と
 クレアムーン国、両者を測りに掛けねばならない」
光成は真顔で言う。しかし、相対する人物への配慮もあろう。
「そう心配することも無いでしょう。如何に危険な位置とはいえ、
 あの地点を包囲するのはそう容易いことではありません。
 エアード将軍も実力を買われて将軍職へ携わったのです」
貴方と同じようにね。−言外にその意味を含めて言い放つ。
一軍の将とは私を抑制し公を優先せねばならない。
将軍への抜擢は、即ちこの一点を理解することを求められてもいる。
そしてこれは光成の信念であった。
「・・・そうですか。了解しときますよ」
「宜しく、お頼みする」
会談はこれで終わりを告げた。

両軍が矛を交えるのは、果たして一刻の後か翌日か。(了)

(2002.09.19)


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