副官着任

朝霧 水菜

「〜〜〜〜♪♪」
彼女―朝霧水菜は宛がわれた私室で、
機嫌良さそうに鼻歌を口ずさみながら、食後のお茶を楽しんでいた。
なんて事のない、当たり前の光景だ―彼女が帝国軍の将軍でなければ。
「今日、部隊の副官が来るのに・・・こんなに呑気にしてていいのかニャ」
彼女の式神の猫―紫苑が体を丸めながら嘆息混じりに呟く。
本来、ルディの世話役でしかなかった水菜が将軍に抜擢された事、
そして、今回の副官着任による部隊編成で帝国軍として認められた事、
これらから察するに・・・
（そろそろ・・本格的にクレアや共和国との戦争が始まりそうだニャ）
皆、口には出さないが、帝国が両国と緊張状態にある事は明白だ。
今にも国は戦火に見舞われようとしている、というのに・・・
「あら・・紫苑。毛づくろい・・・して欲しいの？」
思えば―この主にそういった類の緊張を求める方が馬鹿な気がする。
のほほん、とした笑顔で、そう聞いてくる水菜の顔を見、再度、紫苑はため息をついた。
―コンッ、コンッ・・・
２度、控えめなノックが響き、流石の主も手にしていた茶碗を机に置き、向き直る。
「どうぞ・・・」
「あ、あの・・失礼します・・・」
そっと扉が開けられ、姿を見せたのは、
短めのメイド服を着た、水菜よりも幾分か幼そうな少女だった。
「貴方が・・私の部隊の副官に任命された方、ですか？」
さっきまでのほのぼのとした雰囲気よりは、少し落ち着き払った声で、主が問う。
それを聞きながら、おそらく、これから苦楽を共にするであろう相手をザッと観察する。
（戦闘よりは内政向きだニャア・・・まあ、戦闘向きな主とはいいバランスだニャ）
性格は割と真面目な方なのか、その態度に明らかに緊張の色が見えた。
「は、はい。メイリィといいます。よろしくお願いします」
名乗りながら、あたふたとお辞儀をする少女―メイリィを見、主が軽く苦笑する。
おそらく、主と自分の意見は同じだろう。
「メイリィさん・・そんなに緊張しなくてもいいですよ。
　もっと、気楽に、アットホームな感じでいきましょう・・・」
あんまり不真面目なのも御免だったが、
こう気を張り詰めていられると、大事な時に失敗されそうで怖い。
「は、はぁ・・・気楽に、ですか・・・・」
顔を上げたメイリィが、どこか、戸惑い気味に答える。
（ひょっとして・・服装だけじゃなく、性格までメイドなのかニャ？）
何となく、そう思ったが―敢えてそれは口にはしないでおく。
それはそれで、特に問題にはなりそうにない。
と、その視線が主の膝の上で丸くなっている自分へと向けられた。
―いや、この部屋に入ってきてから気になってはいたのだろう。
「あ・・・この子ですか？　この子は紫苑って言います」
「よろしくニャ」
メイリィの視線に気づいた主に紹介され、尻尾を上げて応えながら、言う。
と、それを聞いた彼女は急に顔を青ざめさせ、手を机につきながら崩れ落ちそうになった。
「な、なな・・・ネコ・・ネコが喋ってます・・・」
余りにもお約束といえば、お約束な反応にこっちも軽く頭痛がした。
どうやら、彼女の評価を割と真面目から生真面目にしないといけないらしい。
「ああ・・・この子は私の式神なんです。だから、厳密に言えば、猫じゃないんです」
言いながら主が自分の頭を撫でる―そもそも式神に、生物の概念は適用されないのだ。
年齢もなければ、性別もない。
あくまで、擬似的にそういったカタチとなるだけである。
そういえば、このラグライナ帝国には式神はそんなに知られていなかったか。
「それじゃあ・・・早速、その書類をルーデル将軍の所に届けてもらえますか？」
言って、この上なく幸せそうな表情で水菜は再びお茶を啜り始める。
「はい、これですね。それでは、いってきま―キャアッ！！」
机の上に置いてあった書類を手にとって、踵を返そうとしたところで、
椅子の足にけつまずいて、メイリィが盛大に転ぶ―どうやら、これもお約束らしい。
「あら・・・大丈夫ですか、メイリィさん？」
元ののほほんとした雰囲気に戻った主が、大して慌てた様子もなく聞いている。
「こんな部隊で、本当に大丈夫なのかニャ・・・」
そんな２人のやりとりを見ながら、紫苑は、三度、嘆息を漏らした・・・


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こっちが日常的な水菜です。
メイリィに関してですが、ＧＭ様に性格とかをお尋ねした所、
『見たまんま、メイドです』との返答をいただき、
自分なりにメイド像という物を形にしてみたのですが・・・
果たして、これがＧＭ様の物と合ってるかどうか・・・（＾＾；
紫苑に関しては、完全なツッコミキャラです。
あと、すっかり忘れていたんですが、
水菜は非処女です（戦場でヤラれたわけではないですが）
ただ、あくまで『純愛』的なＨしかしてないので、
ウブさ加減は余り処女と変わらないですｗ