禁断の果実

朝霧 水菜

「どういう事なんでしょう・・・・」
机の上に置かれた箱を見ながら、水菜は誰にともなしに呟いた。
箱の大きさは割かし大きく、蓋に一枚、紙切れが貼り付けてあった。

『どうぞ、お役に立ててください  ―アリサ・H・フォックスバット』

アリサ・H・フォックスバット―聞いた事のある名前だ。
それもそのはず、彼女はこの帝国軍の将軍で、
軍内では割と歳も近い方に入るのだから。
しかし、彼女に何かを頼んだ覚えはなく、届け物の心当たりもない。
「仕方ないですね・・・開けてみましょうか」
独りごちて、余り重くない―というか、むしろ軽い箱を手に取る。
やや緊張した面持ちで開け、中身を覗くと・・・
「服・・・・・ですか?」
そこにあったのは、どちらかと言うと男物なシャツだった。
ますます訳がわからなくなりそうになりながら、手に取り、広げてみる。
どこからどう見ても、男物のシャツだった。
着古された物なのか、所々にしわがあり、持ち主の愛着ぶりが伺える。
と、服の合間から一切れの紙が落ち、机にのる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!!」
そこに書かれていた文を見た瞬間、水菜の顔が驚愕のそれに染まる。
文章は簡潔で、それでいて、ひどく衝撃的だった―いわく、

『エアードさんの服(着用済み)』

確かに、言われてみれば服自体の匂いに混ざって、
微かな人の残り香も漂ってきているような気もする。
果たして、どういった入手経路でこれが帝国内に来たのか。
―そんな事は、今の水菜にはどうでも良かった。
彼女は辺りを見回し、紫苑が寝ている事、
メイリィも出払っている事を確認すると、おもむろにシャツを持ち直し、
そして――顔を埋めてスゥッ、と1つ、大きく息を吸い込んだ。
(ああ・・・これが・・エアードさんの・・・香り・・・・)
幸せの涙で思わず視界が曇りそうになるのにも構わず、
彼女は満足そうな笑みさえ浮かべながら、ホゥッ、という吐息を漏らす。
今、水菜の頭の中ではシャツを半脱ぎ状態にして、
輝かしいまでに美しい背中を見せる、エアードの姿があった!
首筋から僅かに覗く鎖骨とか、きめ細かな肌だとか、
まあ、そんな諸々の物が彼女の頭の中で展開しているのである。

―ガチャッ・・・
「水菜様、少しお話が――――――」
不意に、戻ってきたメイリィが扉を開き―そして、目の前の光景に固まる。
重い、本当に重い沈黙が広がり、彼女には時計の秒針が進む音が、
やけにハッキリと耳に届いていた―冷や汗が頬を伝うのがわかる。
ギギギッ、という効果音をつければいいのではないか、
そう思えるような緩慢な動作で、ゆっくりと部屋の主が振り向く。
―つい先刻まで顔を埋めていたシャツを手に持ったままで。
「・・・・・・・・見ましたね?」
主―水菜の浮かべる凄絶な笑顔に、何故か、
メイリィは皇帝セルレディカの怒った顔を連想した。
(彼女の中で恐怖の象徴がそれであったらしい)
「ひっ・・・・いやあああああああっ!!!」
天を貫かんばかりの張り裂けそうな悲鳴が城内に響き渡る。
(ホント・・・間の悪いコだニャ)
薄目を開けてその様子を見ながら、
紫苑は心の中で、そう呟くのだった・・・

後日、メイリィが数日間、行方知れずとなっていたのは、
彼女の親しい者の証言である。
その間、概ね、帝国は平和という事になっていた・・・
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ノリSSその2。
サポートサイトの趣味に【妄想】と公言しておきながら、
そういえば、全くその関連のSSを書いてなかったな、とw
ちなみに、ネタは某ラブコメマンガのパロディです。
(このSSはアリサさん、エアードさんに許可を頂いて作成しています)


(2002.09.17)


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