直ぐそこにある恐怖
朝霧 水菜
「クスクス・・・そんなに怖がらなくてもいいのに・・・・」
「ひゃあっ! た、助けてください、紫苑・・・」
「ふにゃあっ!! こ、こっちに来るんじゃないニャ!」
背後から聞こえる喧騒を他所に、水菜はお茶を啜っていた。
まあ、いつも通りの日常―唯一、変わったのはリルルさんが副官として派遣された事か。
流石に、あのグレイアスさんでも彼女の相手をするのは疲れたらしい。
「ふぅ・・・このお饅頭・・・美味しいですね・・・・」
机の上に置かれた茶菓子を頬張りながら、しみじみと呟く。
何か―とてつもなく大切な事が抜けている気がするが、気にしないでおく。
と、不意に、背後で続いていた喧騒が静まり返った。
「・・・・・・・・・?」
怪訝に思い、振り返ろうとするよりも早く、リルルさんの気配が背後に立っている。
「ねぇ・・・見て見て。あんまり怖がるから、つい、やっちゃった♪」
言われて、改めて振り返り、絶句する。
「ひっ・・・・・!」
リルルが嬉しそうに持っていたのは―――
「いやああああああああああっ!!!」
絶叫を上げながら、起き上がる。
動悸が激しく、全身に嫌な寝汗を掻いているのを自覚する。
「な、何だ!?Σ(==;」
「水菜様、どうかされましたかっ!?」
「全く、騒がしいニャ・・・・」
そんな水菜の様子に、三者三様の反応を返す、エアード、メイリィ、紫苑。
(ゆ、夢・・・・?)
その3人を見て、胸中で呟く。
確かに、あの夢にはエアードさんは出てきていなかった。
そもそも、リルルさんが副官に来るなどという話は、聞いたことがない。
ホッ、と安堵の吐息を漏らした瞬間、張り詰めていた緊張が緩んだ。
「あうーっ・・・3人とも・・死なないで・・ぐすっ・・・ください・・ね・・・・」
まだ呆気に取られている3人に縋りつくように、泣き始める。
「ど、どうされたんですか? 何か、怖い夢でも?」
突然の水菜の涙に慌てながらも、必死に落ち着けようとするメイリィ。
「な、何か知らんが・・・取り敢えず、殴っておくな(==;」
戸惑いつつも、鍵的発言にはキッチリと突っ込みを入れているエアード。
「アタシはそもそも“死”っていう概念が当てはまらないんだけどニャ・・・」
どうしたものかと思案しながら、冷静にぼやく紫苑。
―ガチャッ・・・
「何だか騒がしいみたいだが・・・水ちゃん、ちょっといいかい?」
軽いノックの後、そう言いながら入ってきたのは、グレイアスだった。
そして、当然ながら、その副官のリルルもまた、その後につき従っていた。
そのリルルの顔を見た瞬間、水菜から血の気がサァッ、と引き、
「きゅうっ・・・・」
―パタリッ・・・
「あ、今度は倒れたニャ・・・」
「きゃあっ!! 水菜様、水菜様っ!?」
「叫んだり泣いたり倒れたり・・・忙しい奴だな、全く・・・・(−−;」
「俺か? 俺のせいなのかっ!?」
4人の喧騒を聞きながら、水菜の意識は、再び闇の中に堕ちて行った。
「う〜ん・・・生首・・生首はイヤぁ・・・・」
という、謎なうめき声を発しながら・・・
「クスクスクス・・・・」
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