部隊再編成
朝霧 水菜
「あ、あの、水菜様・・・・」
呼びかけに、紫苑の毛づくろいをしていた手を休め、水菜は顔を上げた。
視界に入ってきたメイリィは不安そうな面持ちで見返している。
「・・・何ですか?」
僅かな―予想される質問と、その答えを用意する―間を置いて、先を促す。
毛づくろいを終えた紫苑は、気持ち良さそうに欠伸をして、そのまま眠り始めた。
「今度、私が配属されるミル様って・・・あのミル様ですよね?」
彼女が“あの”と付けたのは、水菜とエアードの一騎打ちの件だ。
あの後で、水菜は呼び出され、こってりと絞られたのはメイリィも知らされていた。
まあ、当の水菜自身はそれほど堪えた様子もなかったそうだが。
「ど、どうしましょう・・・やっぱり、ドジとかをしたら、怒られますよね?」
不安そうな、助けを求める子羊のような眼差しで、メイリィが問う。
ちなみに、彼女の中で恐怖のランク付けをすると、
1位.セルレディカ様(というか、既に怒った顔は恐怖の象徴)
2位.水菜様(この前の一件(『禁断の果実』後)が相当堪えたらしい)
3位.エアードさん(怖い、というよりもツッコミが激しい)
ミル=クレープという人物は、この次ぐらいに彼女にとって怖い存在だった。
「彼女は規律に厳しいですからね・・・」
少し意外そうな感じで、水菜は苦笑を浮かべた。
あの様子では、愚連隊指揮官の空さんは毎日のように怒られているのだろう。
それでも、元が傭兵上がりである水菜にとって、
そういった軍規などは長く無縁の存在だった―傭兵は勝つ事が第一なのだから。
勝てば官軍―この諺は傭兵にとって実に的を得た言葉だと思う。
「それにしても・・・転属の件・・意外にあっさりと承諾したのですね」
正直、私が説得しなければいけないと思っていた―これが水菜の本音である。
軍としての命令とはいえ、彼女にしては寝耳に水だったのは違いないはずだ。
「あ、はい。今回は同じ戦場に居ますから、時々、遊びに行けますし・・・」
言いながら、メイリィの顔がまた不安げに揺れ始める。
「・・・・ミル様は遊びに行かせてくださるでしょうか?」
「遊びに、は無理でしょうけど・・・命令の伝達など、口実は幾らでもありますよ」
それに、苦笑で応えながら、やや熱を失いつつあるお茶を啜る。
何故、軍部が私に単独で部隊を組ませたのか―その理由は伏せておくべきだろう。
(『全滅を考慮に入れた編成』・・・なんて、言えませんからね・・・・)
それが知れれば、本当に彼女を説得しなければ行けなくなる。
尚も不安そうにオロオロしているメイリィを見ながら、水菜は、胸中でそう呟いていた・・・
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