継ぐ者

朝霧 水菜

「帝国軍は歩兵1部隊、法術3部隊をシチル側沿岸部、我々の防衛線前方に展開しています」
「帝国第7部隊紅月夜、我が部隊に法術攻撃を開始しましたっ!」
「続いて、第6部隊及び第8部隊が連続して法術攻撃、押されていますっ!!」
矢継ぎ早に飛び込んでくる報告を、コマは簡易ベッドの上に横たわりながら聞いていた。
先日の帝国軍の将軍・空との一騎打ちの傷がまだ治らず、天幕での安静を強いられているのだ。
「く、くそぅ・・・僕が何をしたっていうんだ・・・・」
傷の痛みに涙を滲ませながら、呟く―それもこれも、あの夢枕から始まっている気がする。
「ま、まさか・・・これも女難のせいっ!?」
思い当たって、ガバッ、と起き上がり、叫んだ。
―直後、激痛に見舞われたそれ以上の悲鳴が、「蒼翼隊」の天幕からシチル陣内に響き渡った。

「・・・・・・・・・?」
背筋を駆け抜けるような悪寒に、ビクッ、と体を震わせて、水菜は辺りを見回した。
今、彼女の部隊は法術の詠唱の最中であり、彼女はその間に攻撃されないようにと、
数名の護衛兵と共に少し自陣より前に出て、敵部隊からの護衛に回っている。
「・・・・どうかしたのかニャ?」
その脇で平和そうに体を舐めていた紫苑が、水菜の様子に気づき、問いかける。
「いえ・・・何故か、敵部隊からエアードさんと同じ『匂い』を感じたんです・・・・」
自分でも、自身の感覚に戸惑っている、といった感じで水菜がそれに答えた。
勿論、何か理論的な根拠があるわけではない―いうなれば、直感に近い。
「敵部隊というと・・・指揮官はコマ・スペンギルドだニャ」
確認するように呟いた紫苑の表情が、苦々しげに歪められる。
"あの男なら確かに同じ匂いがするかもしれない・・・"

―それは、シチルの攻防の、ほんの一コマに過ぎない出来事だった。

(2002.10.26)


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