最前線にて―部隊名変更―

朝霧 水菜

―帝国第7部隊天幕―
「う〜ん・・・・」
聖都・クレアに再び戻ってきた第7部隊の天幕で、水菜は一通の書類を前に唸っていた。
まだ、部隊その物は聖都に侵入してきたばかりで、本格的な戦闘には参加していないのだが・・・
「おわ・・・水菜が真面目に考え込んでいる・・・こりゃ、明日は吹雪か地震か雷か?」
「何だか・・・さりげなく酷い事、言いませんでした?」
「ところで、何の書類なんですか?」
入るなり、驚いた様子で呟く蒼主と、それをジト目で見る水菜のやり取りを横目に、
彼と一緒に入ってきた紗耶が、事務机の上に置かれた書類を覗き込むと、
そこには、形式ばった文字で簡潔に、しかし、実にわかりやすく書類の内容が書いてあった。曰く、

『部隊名変更申請書』

「あれ・・・部隊名を変更するんですか?」
「ええ・・・部隊の方々の顔ぶれも変わりましたし、メイリィさんも居なくなりましたから・・・・」
紗耶の問いに、最後の方で若干だが言葉を濁しながら、水菜。
確かに、1度壊滅したせいで以前からの部隊員の殆どが負傷・死亡で離脱、
新たに入ってきた部隊は新たに帝国領となったシチルの者も含まれている上、
蒼主と紗耶の2人も水菜の補佐という形で隊に帯同する事になった。
そのせいもあってか、『紅月夜』からの隊員というのはまるで居なくなってしまった今は、
もう、全く別の部隊といってもいい―それが、部隊名変更を思い立った経緯だった。
「えっと・・・私が『月』で蒼主さんが『風』だったから・・・・」
再び、思考に入る水菜だったが、今度は直ぐに顔を上げ、
「新部隊名は月か―――」
スパアアアアアンッ・・・
言い終わるよりも早く―殆ど顔を上げたのと同じタイミングで―蒼主がハリセンで叩き倒す。
「何だか・・・最近、ツッコミの反応が上がってきてませんか・・・・?」
「ん? 何となく、お前の発言が読めるようになってきた気がするな(^^)」
そう言いながら、ハリセンで肩を叩き、蒼主は満面の笑みを浮かべている。
背後で、外の警護をしていた兵士が何事かと中を覗き―またか、という顔をしたのが見て取れた。
「う〜ん・・・じゃあ【花鳥風月】というのは駄目ですか?
 自然が全て好きって事で紗耶さんが花鳥、蒼主さんが風、私が月って事で・・・・」
その兵士の顔をしっかりと覚えながら、そう言った水菜に、蒼主と紗耶は顔を見合わせて、
「・・・・・・・単純だな(−−;」
「・・・・・・・単純ですね」
「うう・・・確かにそうですけど・・・・(泣)」

―そんなわけで、法術部隊【花鳥風月】、編成。

(2002.12.28)


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