お目付け役

御剣 叢雲

 朝――。
 一日の始まりを告げるがごとく太陽が遠慮無く昇る。開け放った障子の向こうから光が伸びてくる。
「眠い…」
 上半身を起こして辺りを見回しても目に入ってくる光景は戦乱など感じさせないぐらいに平和なものだ。
「もうちょっと…」
 ぼふっと枕に後頭部を預けるように倒れこみ、布団を被り目をつぶった。
「『もうちょっと』じゃ無いでしょ〜? ねぇ〜むらくもちゃ〜ん?」
 と、突然枕もとからかけられた声に叢雲の眼がまんまるく開く。
「あ…ひ、緋和さん…おはよ〜」
「うん、おはよ〜」
 叢雲が逃げ出した直後、緋和が振り下ろしたハリセンが叢雲の枕を叩いて小気味のいい音を立てた。

「…で、緋和さん仕事しなくていいの?」
「ん〜? 今日から転職したからだいじょ〜ぶ」
 何故か含み笑いで緋和が答える。
「そ〜ですか…って副将の仕事はどうするんですか!?」
「新しい人にお願いするだけ。今日からアタシは…」
「…何なんですか?」
「叢雲ちゃんの世話係」
 叢雲は緋和が襟を掴む寸前に逃げ出した。

「止まりなさいって言ってるでしょ〜が!! さっさと止まらないと晩御飯の味噌汁、出汁とらないからね!!」
「止まったってやるだろうからイヤです!!」
「止まれ!!」
「イヤ!!」

「む〜ら〜く〜も〜ちゃん?」
「う…追い詰められちゃった…」
「覚悟できてる…よね?」
「あ! えあ〜どさん!!」 「え!? どこどこ?」
「…はどこかな〜」
「こらっ! 待ちなさい!!」

 その日、夕方になって部屋に戻った叢雲を待ち受けていたのはご飯と塩だけのさびしい食卓だったと言う。

(2002.09.03)


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