幻影の夢
御剣 叢雲
――聖都クレア
「なあ…この部隊って凄い贅沢だよな…」
「あ、やっぱりお前もそう思うのか?」
帝国軍が進撃を開始したとはいえ、いまだどの部隊にも配属されていない兵士たちはさまざまな考えを持って各々の時間を過ごしていた。
「大体蛍将軍は渚将軍と一緒になると思ってたからな…俺もこの部隊入りたかった〜」
と、その時彼らの背後を当の叢雲が凄まじい勢いで走り去る。
「お〜…」
「何か…今日はいい日だな…」
彼らが小さくなっていく叢雲の後姿を眺めて感想をのたまっていると
「ちょっと邪魔!」
無防備になっている背後から緋和に張り倒された。
「え〜と…今回の行動は…」
『ぐぅ〜…』
「帝都に罠を仕掛けて…落とし穴とかべあ・とらっぷとか…」
『ぐぅぅ〜…』
「とりあえず敵の本拠地に…おなかすいた」
『ぐるるるぅ〜…』
腹の虫鳴きまくりで作戦の内容を説明する叢雲だったが、
『何か疲れた感じも良いぞ〜!!』
とシンパの皆様には好評だ。
「え〜と…なんだっけ? えっ? 罠じゃないの?」
その間に隣に立っている「聖軍師」白峰蛍に作戦の中身を問い直す。
「う〜ん…」
問い直された蛍はしばらく黙考して
「帝都の建物とか壁とかぶっ壊しちゃえばいいの」
と、叢雲に分かりやすいように噛み砕きまくって説明した。
「…とゆ〜わけでこっそり帝都の建物とか壁とかぶっ壊すぞ〜♪」
『おお〜!!』
空気がびりびりと震えるような大音響は、ある種たくましかったが
「同属の集まり…」
と、横で見ていた同属の筆頭である緋和は呟いた。
――その後、彼らがどのような活動をしたのかは彼らと帝都の人しか知らない…が、他の活動と比べて詳しい結果が記されていないことから大体の予想はつくだろう…
「それにしても…」
「ん〜?」
「みんな元気ですね〜」
「ねぇ…ちゃんと話聞いてた? ってか今の状況分かってる?」
のほほんとのたまった彩音に緋和が早口でまくし立てたが
「あ〜…緋和さん…ちょっと太りました?」
「逆に痩せたわよ!!」
のんびりとした彩音に緋和すら手玉に取られるのだった。
――しばらく後、叢雲の家
「あ、野獣が一人いるだけだから遠慮しないで上がって」
「や、野獣…?」
「あ〜、それから色々と危ない仕掛けが多いからできるだけ注意してね」
怪しげな一言を残して叢雲が蛍を自分の家に案内する。彩音は「眠い」と言って途中で帰って寝てしまっている。
罠を踏まないように廊下を歩いていると目の前から緋和がずぶ濡れになってやってきた。
「あ、蛍ちゃんそこ危ない」
「えっ?」
蛍の足が空中で緊急停止する。
「む〜ら〜く〜も〜ちゃん…なんで人の部屋にまであんな罠仕掛けてんのかおね〜さん教えて欲しいんだけどな〜」
「んでアレがうちの野獣。それからそこ踏むと…」
怒りのオーラを発した緋和がずんずんと叢雲の方に向かってきて…落とし穴に落ちた。
「こうなるの」
と言って叢雲はどこからともなく取り出した金ダライを落とし穴に向かって放り込み…約三秒後に衝突音が響き渡った。
「…んで、今後の行動だけど」
「はい?」
茶を飲みながらごろごろしてる叢雲が蛍に話を持ちかける。先ほどまではどこの飯屋の飯がうまいとかそんな話題だったのだが、脈絡なく話題が変わるのは叢雲の常だった。
「このままココで今みたいなことしててもイイんだけど、やっぱり前線でて暴れたいしね」
「暴れるんですか」
相変わらず物騒な叢雲に多少ジト眼になりながら蛍がとりあえず突っ込みを入れる。
「特に帝国将軍のアリサさん…」
「?? 何でまたアリサ将軍なんですか?」
「私より背が高いから」
「……」
できればその場にだけは居たくないと蛍は思った。
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