叢雲、聖都に帰る

御剣 叢雲

帝都で好き放題やってきた叢雲たちは、緊張状態にある前線地域をさっさと通り過ぎて聖都へと帰っていった。
意外に何事もなく、全員無事に聖都まで戻ることができた叢雲たちはひとまず家路へとついた。
「あ、おかえり〜」
両親が殺害され、他に肉親が居ないために一人暮らしのはずの叢雲が家に帰ると、いつのまにか住み着いている緋和が叢雲を出迎えた。
「あの〜…緋和さん…なんで私たちって同棲してんですか?」
「ん?」
『同棲』と言う部分を強調しながら叢雲が緋和に問い掛けるが、
「私が叢雲ちゃんの目付け役だから。それに家賃浮くし」
と、緋和はあっさりと返すのだった。

朝日が昇り、次第に南に向かっていく。ほとんど南に近い場所まで移動した頃になっても叢雲は寝息を立てて寝ていた。
「……いいかげん起きんかいっ!!」
叢雲の睡眠を妨害した緋和は叢雲の反撃を待たずにさっさと逃げ出した。布団から体を起こした叢雲の傍らに、突然忍装束に身を包んだ人物があらわれた。
「…あちらの様子はどうでしたか?」
「ふぇ…?」
「ご謙遜なさらずとも、わざわざ危険を冒してまで敵の首都に潜入されたからにはそれ相応の御覚悟があってのことだと思われます。…帝都の様子を教えていただけないでしょうか?」
「ん…え、え〜と…」
その人物が叢雲に話しかける。しかし正座したまま、ほとんど身体を動かさないで話す様子は、どこか人形を髣髴とさせた。
「う〜ん…誰に頼まれたのか知らないけど…『聞きたかったら自分で来い』って言ってくれる?」
「……人気のあるだけの小娘が…いつからそんなに偉くなった?」
「さあ…とりあえず『お堅い老人サン達の薀蓄は聞き飽きた』って言っといてね。伝言一つ追加」
ほとんど感情の読み取ることができなかった人物の語気が多少荒くなった。
「調子に乗っていられるのも今の間だけだ…小娘一人、いつでも陽の当たる道を歩けなくすることも我々には容易いことを忘れるな…」
「…一つだけ教えてあげようか?」
「……」
「あっちはこっちみたいに年齢だけで権力にしがみついてる人はいなかったみたいだよ…」
傍らの人物と全く眼をあわせずに叢雲がぽつりとつぶやく
「…好きにしろ…何が起こっても知らんからな」
そう言って忍装束の人物は姿を消した。

「『人気のあるだけの小娘』か……」
叢雲が呟いた言葉は自身の耳にしか届かないほど小さかった。

(2002.09.11)


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