罪人

御剣 叢雲

『子供か…子供がいるとはな…』 呆然として眼前に横たわって動かない両親を見ていた叢雲の耳に、その言葉はほとんど入ってこなかった。何が起こったのかすら、叢雲にはわかっていなかった。
体を使うことがからきしだった文官の父、時に間抜けだが、戦場では冷徹な判断をする将軍だった。
自分に忍術を教えてくれた忍の母、能天気で明るい性格だったが、要人の暗殺から諜報までと、叢雲を育てたその手を血で汚してきた。

――その二人が、紅の血を流して叢雲の前で動かなくなっていた。
『子供が一人残される…死ぬより辛いことだろう…だが、お前の両親の罪も背負って苦しんで生きるがいい…』
その時には聞こえなかった言葉が、今では鮮明に聞こえていた。
『お前の両親は…』
(おねがい…それ以上…言わないで…)
『お前の両親は帝国の諜報部員だ』
(そんなこと…そんなこと無い…だって…お父さんとお母さんが…)

無言で背中を向け、そのままゆっくりと去っていこうとする男の背中を、叢雲は気づかないうちに抱きとめていた。
「………」
『すまないが…事実だ』
「……」
男は叢雲の手を引き剥がして再び歩いていった。
しかしその男をもう一度叢雲が後ろから抱きとめる。
「…私も殺して…私も殺してよ…お願いだから…殺して…」
『…自分で死ぬのではなく…俺に殺されたいということか…?』
涙を流してうつむきながら小さくうなずく叢雲。
『俺を恨むな…』
男は叢雲に向かって彼女の両親の血に染まった刀を振り上げ、思い切り地面に叩きつけた。
乾いた鉄の音と共に刃が折れ、漆黒の空を鈍く映して消えていく。
しばらく叢雲を見ていた男はゆっくりと闇の中へ去っていた。

「ねえ…お願いだから殺してよ…」
しばらくたった時に、叢雲はたった一言だけつぶやいた。

(2002.09.13)


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