叢雲、作戦を立案する

御剣 叢雲

叢雲は珍しく机に向かっていた。その机の上には一枚の地図と配置されている部隊を示す簡単な印がある。どうやら背後から近寄ってきた緋和にすら気付いていないようだ。
「う〜ん…ココは川と山が近いから通りたかったらこの間しか通れない…よしっ」
と言って地図のその場所に大きく赤丸をつける。
「ココにでっかい落とし穴掘って、帝国の部隊がそれに引っかかってる間に周りから総攻撃すれば…」
と言って赤丸の横に落とし穴と書く。
「これでよし!! 最高の作戦だねこりゃ」
「勝手にキャラ変わるんじゃな〜い!!」
地図を丸め出した叢雲の後頭部を緋和が渾身の力で振るったハリセンが襲撃した。

「でもイイ案だと思いません?」
「イイも何も…あのねぇ…」
「はい?」
今は叢雲と緋和が座って向かい合っている。その間には先ほど叢雲が広げていた地図が置いてある。
「コレ…どこの地図なのよ…」
「え? ココのじゃないんですか!?」
「全然違うわよ…」
珍しく真面目に考え事をした叢雲の苦労は空回りして終わった。
「ほんっとにアンタは…いっつもどっかズレてんのよね…胃が痛くなるわ」
「緋和さん…考えすぎはよくないですよ…」
「アンタのせいでしょ〜が!!」
その日二回目のハリセンの一撃が叢雲の顔面にクリーンヒットした。

「あ〜あ…結構いい考えだと思ったんだけどなぁ…」
といいながら叢雲は件の地図を眺めていた。
「所詮お前はその程度だ…体術も特筆するようなものではない、指揮能力も人気がある故のもの、そして政治に関してはまともな計画が立てられん上にあのざまだ」
突然この間現れた人物が叢雲の背後にあらわれる。
「お前のようなものが一部隊を率いること自体が間違いだ。いいか? お前は…」
「だんだん語気が荒くなってるよ、私をどんな風に考えてるか知らないけど忍がそんなのでいいの?」
「き、貴様…付け上がりおって…」
「悪いけどさ…あんたみたいなのには負ける気しないんだけど…」
「小娘が! 愚弄する気か!!」
以前現れた時とうって変わって荒々しく叫び、懐刀を抜く。その声は落ち着いた時には分からないが女性のものだった。そしてその間中背中を向けたままの叢雲は足元にある紐を手に取った。
「戦う時には相手に注意する。常識だよ」
「このっ…」
女が荒々しく足を踏み出すが、床はその足が乗ったとたんにその足を引き込むように真下に隠されていた深い穴の中へと落ちていった。
「くっ!!」
そのままバランスを崩し、落とし穴へと落ちる女。途中で何とか脱出しようと壁を蹴ったが、壁に塗られた油に足をとられ、穴のそこまで落下していった。
「相手だけに注意してもダメなんだけどね…」

どさっという音を立てて穴の底に落ちた女は奇妙な感覚に囚われた。
「藁…? でも何故?」
落とし穴の底にはかなり大量の藁が敷き詰めてあった。そのお陰で女も怪我一つすることなく穴の底にいる。
「罠って意外と殺傷力あるんで〜、とりあえず安全なようにしてるだけです〜」
遥か遠くの穴の入り口から叢雲が顔を突き出して大声で言う。
「それから〜、分かってると思いますけど〜、壁に油塗ってますから〜、火をつけたら危ないですよ〜」 続けて叢雲が言う。
「じゃあ〜、さよ〜なら〜」
と言った叢雲は自分から刀を抜いてその穴に飛び降りた。
一風代わった「轟雷刀」の刀身が暗闇の中でも明るく、青く光る。それを持って飛び降りてくる少女の身体を蒼く照らし出す。
女は穴のそこで魅入られたようにその光景を見つめ、
――ああ、あれに斬られて死ぬんだな…
と目をつぶった。

「あ〜疲れたぁ…」
座敷の一箇所に空いている穴から叢雲が這い出してくる。体中ほとんどが返り血で紅く染まっているが、本人は気にする素振りすらない。
「やっぱ深すぎたかな…でもコレぐらいだったらさっきの作戦も成功するかも…」
と呟いて叢雲は風呂へと向かった。

(2002.09.14)


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