涙
御剣 叢雲
「敵に囲まれました!!」
「敵法術部隊、騎兵からの攻撃です! こちらの兵力は半分ほどになりました!!」
矢継ぎ早に報告が入る。どれもいい知らせとは言うことのできないようなものばかりだった。
「…うん」
暗い表情で、しかし心ここにあらずと言った雰囲気で叢雲は曖昧な返事を返した。
数刻前、叢雲は攻撃を受け始めた自分の部隊を鼓舞して回っていた。
しかしその叢雲の眼の前で多くの兵士たちが血を流し、あっけなく死んでいった。あるものは即死だった。あるものは苦しんで死んだ。生き残った兵士たちも怪我をしていない者のほうを探すのが難しかった。
「…………やだよ…見たくない……そんなの見たくないよ…」
報告に来ていた兵士が去り、一人きりになった叢雲がぽつりと呟いた。
「……殺して…私を殺して…誰か……」
「おい! 将軍が一人で敵陣に歩いて行ったぞ!!」
「何!? 叢雲ちゃんが!?」
「急げ!! 早く守りに行くんだ!!」
突然叢雲が一人きりで帝国軍のほうへと歩いていったことを知った部隊は慌てふためいた。
「……殺してよ…誰でもいい…」
叢雲は涙を流し、そう呟きながら徐々に帝国陣営へと近づいていった。先ほどから帝国兵が周りを囲んでいるのだが、叢雲を捕獲しようとしているのか、斬りかかったりする者はいない。
「何で…なんで殺してくれないの…?」
自分を捕獲しようと手を伸ばす帝国兵を蹴り、そして斬り、叢雲は少しづつ歩いていった。
叢雲を囲む帝国兵たちがのしかかるように背後から叢雲に飛びついた。そのままなすすべも無く地面に叢雲が押し倒される。
「なんで殺してくれないの!! ねえ、殺してよ!! 誰か私のこと殺して!!」
地面に組み伏せられながら叢雲は号泣した。
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