終わり行くキオク
御剣 叢雲
叢雲は気を失っていた。
意識の闇の中でも「彼女」は殺してほしいと泣いていた。
――どうして殺してほしいの?
限りなく広がる意識の闇の中で自分の声が何処からともなく響いてくる。
しかしそれははるかかなたから聞こえたような気がした。
――ねえ、どうしてあなたは殺してほしいの?死にたいんだったら自殺したっていいんじゃないの?
『私も殺してほしい…お父さんもお母さんも梢も殺された…自分じゃない人に終わらされたから…だから誰かに殺してほしい…』
――じゃあ、何で「ワタシ」を「アナタ」が押し込めるの?
闇の中に一人の女性が現れる。顔立ちなどは叢雲のそれであったが背は少し高く、何処と無く大人の雰囲気を感じさせる。
『じゃあそっちはどう思うの? 何もしないで「あの日」を過去にするの?』
――「アナタ」の時間は…あの雨の日からずっと止まってる…その時から「ワタシ」はずっと「アナタ」に押し込められていた…
「女性」はぽつりとつぶやく。
――それなら…「アナタ」はどうしたいの? あの雨の日を過去にしないために…
『それだから死にたいんです…みんなと同じように誰かに終わらされたいんです…「あの日」の前に戻るために…』
――だったら今まではどうだったの? あの雨の日から今までは?
『それだって私は…』
次第に叢雲の意識は闇よりももっと暗い場所へと落ちていった。
自分の家の玄関に「彼女」は立っていた。中からはどこか聞き覚えのある声が聞こえてくる。
『お父…さん・・・?』
その声を求めて「彼女」は走り出す。しかし家のどこにも、声の主の姿は見えなかった。
そして「彼女」は家の外にも飛び出した。しかし街の何処を走っても、何処を覗いても、人はおろか犬や猫すらいなかった。
――「アナタ」の「世界」には誰かがいたの? あの雨の日から、「アナタ」の「世界」に誰かがいた?
道の真ん中で荒い息をしながら呆然と突っ立っている「彼女」にいつの間にか現れた「女性」が声をかけた。
――こんな世界に行きたいんだったら、「ワタシ」が「アナタ」を殺してあげる。
『………』
――「アナタ」が無理に明るく振舞っているうちに…「アナタ」の「世界」には誰もいなくなってたのよ…
『そんなの…そんなの違う…』
『殺してほしい…お父さんとお母さんと…梢がいる場所に連れて行ってほしい… 誰か…誰か殺して…』
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