ネコ屋敷

御剣 叢雲

「叢雲ちゃん…帰ってこないね…」
朝日の差し込む畳の上で緋和はつぶやいた。その隣ではさすけがおとなしく座ったままじっとどこかを見ている。
「………ん?誰か来た」
叢雲が帰ってきたのかと期待しながら緋和が玄関へと向かう。…コレが今まで何度繰り返されただろうか。
「朝早くに失礼、日向緋和殿ですね…」
文官くさい老齢の男が数人の部下を連れて緋和にたずねた。
「あ、はい…」
「叢雲殿のことだが…おそらく二度とクレアには帰ってこないだろう…それだけを伝えに参った…では」
「…え?」
要件を言うとすぐに踵を返してしまった彼らに、緋和は何も言うことができずにその場に座り込んだ。緋和に確信させるほど彼の口調は重く、そして悲しかった。
「叢雲ちゃん…」

「おい、ココか?その無人の屋敷ってのは?」
「はい、ココですね。古ぼけた神社の向いと聞いてましたから」
「この屋敷を取り壊して土地にするというわけか」
「はい、そうで…ってネコだらけですね…」
「ネコ…だな…」
「こっち見てますよ…」
「何かココ壊さないほうがいいような気がしないか…?」
「同じコト考えてます…」
そのようなことを言いながら人のいない屋敷の前からいそいそと立ち去った二人組みを見送るように多数のネコが屋敷の玄関から物音を立てずに出てくる。
その屋敷の中では床に開いた落とし穴や跳ね上がった畳などの数々の罠がじっと無音の空間で日の光に照らされていた。

(2002.10.05)


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