新たな始まり

御剣 叢雲

叢雲はシチルの町の近くを東へ向かっていた。
意外にも叢雲が捕らえられていた天幕からふらふらと出て行こうとするとその周囲にいた兵士たちは叢雲に何もしないどころか野営地の外まで無言で付き添ってくれたのだった。
(ココでは…殺してもらえなかった…)
そう思う。
ただ、“ココ”が何を指すのか…それが戦場なのか天幕の中だったのかクレアムーンだったのか、叢雲自身にもわかっていなかった。
叢雲は愛刀だけを手に、行くあても無く歩いていった。

  ――殺してほしいのなら帝国の軍隊にでも一人で斬りかかったら? 何でわざわざ歩いてるの?
  『……あそこでは殺されなかったから…だから私を殺してくれる人を探して…』
  ――つまりまだ死にたくないんでしょ?
  『違う…私は、私は…』
  ――「アナタ」がやってることは逃げてるだけ…両親と梢が殺された現実から逃げてるだけ…それでいいの?
  『……』
  ――引き換えしてクレアに戻ったら?
  『……わかった…でもクレアには戻らない』
  ――何で?
  『あそこはもう私の居場所じゃない…』
  ――さすがに考えることは同じ…か。

街道脇の林の中で叢雲は眼を覚ました。いつの間にか寝ていたらしい。
「お、眼ぇ覚めたか? 腹は減ってないか?」
起き上がって寝ぼけ眼をこする叢雲に斜め後ろから声がかかる。焦って振り向くと、そこには一人の男が座っていた。
「あ、あの…」
「苦労したぜ〜、あの連中ちょっと村を襲った程度でしつこく追っかけてきやがる…。それでばらばらになって逃げてく途中の道でアンタが行き倒れてんだからよ」
男は近くに置いてある袋の中からパンを取り出しながら言った。
「…誰に追いかけられてるんですか?」
「あ、言い忘れてたな…俺はこの辺の山賊の人間なんだ…ってビビるなって、俺の守備範囲はもっと上だよ」
からからと笑いながら男が言う。誰に追いかけられてるのかは結局言わなかったが、単に忘れただけかもしれない。
「お、そういえばアンタ名前は?」
「私…ですか? 叢雲って言います」
「そうか、俺はバージルって言うんだが…まあ覚えないでいいぜ」

しばらく時が過ぎる。その間のバージルの話からここがカルカシアに近い場所であることがわかった。
「んで、アンタは何処に行く予定だったんだ?」
「別に…どこでもいいんです…帰る場所なんて無いから…」
「あ、ワリい、なんか聞いちゃいけないことみたいだったな…この近くに村があるけどそこまで行くか?」
自分たちが襲った村なんだが…とバージルは笑いながら続けた。

叢雲とバージルは連れ立って街道を歩いていた。バージルの言う村はゆっくり歩いて数刻の場所にあると言う。
日が昇り昼も近づいてきたころ、突然バージルの顔つきが険しくなった。
「くそっ…こんな場所でよりにもよってヤツが来るとは…」
「ヤツ…ですか?」
「うちの山賊の幹部だよ…頭が冴えるが性格が悪い…下っ端には偉そうにするクセに上の連中には媚売りやがる…」
帝国と裏取引してるって噂もあるとバージルが付け加えたころにその男が二人の横に並んだ。
「ん? 仲睦まじいカップルかと思ったらバージルか…その娘はどうしたんだ?」
「お前には関係ない」
「そうか…残念だな…」
そういった直後、男は突然バージルに隠し持っていたらしいスローイングダガーをバージルの胸部へ投げつけた。バージルは避ける暇も無く命を落とした。
「俺がお前を殺すのに好都合な時に油断するんじゃねぇよ…まあ、連中につかまったことにしといてやるか…あの世で感謝しな」
といいながら男が叢雲の方へ向き直る。バージルの死体を地面に転がった石でも見るかのように見つめていた叢雲はその首筋に突然麻酔針を打たれ、意識を失った。

  ――人が死んだよ。
  『そうだね…』
  ――その割には平気そうじゃない…アレだけ動揺してたのに…さ。
  『うん…』
  ――「ワタシ」だったら最初から大丈夫なんだけどね。
  『そういえば殺してたね』
  ――さてと、じゃあそろそろ「ワタシ」は用済みかな?
  『そっちが決めることでしょ』
  ――言うようになったわね。
  『分かってるくせに…』

叢雲が眼を覚ました場所は山中にある小屋の中だった。
しかしよく見てみると周囲を数十人の男が取り巻いている。それだけで叢雲は何が起ころうとしているか察知できた。何より自分が全裸で縛られているのがいい証拠だ。
「やっと起きたか…」
「いつまでも悠長に寝やがって」
などと周囲の男がなにやら言っている。叢雲はゆっくりと立ち上がった。足が縛られていないのは向こうの都合だろうが、走れるだけ好都合だった。
「くそっ早すぎる!!」
「あのアマっ俺に蹴りなんか入れやがって!!」
山の斜面を恐ろしい速さで下っていく叢雲を追う山賊たちはなかなかその距離を縮められないでいた。逃げ切れると思った瞬間、叢雲は自分の愛刀のことを思い出した。
迷うことなく踵を返し、追ってくる山賊の合間を縫って斜面を登る叢雲。虚を突かれた山賊たちは一瞬叢雲を見失い、その間に叢雲はさらに大きな差をつけて小屋の方へと走っていった。

轟雷刀は小屋の中に立てかけてあった。両手が縛られている叢雲はしばらく手でつかもうとした挙句、鞘を口に咥えて再び小屋を飛び出した。
斜面を登ってくる山賊たちと斜めになるように叢雲が走る。このまま逃げ切れると思った瞬間、轟雷刀の鞘が木の幹にぶつかり、叢雲は衝撃を受けて地面に倒れた。その直後、追いついてきた山賊たちに叢雲は再び捕らえられた。
「さんざん逃げ回りやがって…覚悟はできたか?」
「とりあえず連れて行くか…お楽しみはその後だな」
笑い声を上げながら山賊たちが叢雲を運んでいく。叢雲は抵抗したが縛られている上に非力な彼女の抵抗は無いに等しいものだった。

「んっ! んぐっ!!」
叢雲の口の中に肉棒がねじ込まれる。すでに叢雲の身体とその周囲は男たちの放った大量の白濁液に汚されている。
「それにしてもこの刀がそんなに大事だったのかぁ? それなら大事なモノはダイジな場所に押し込んでやるよ」
そう言った一人の男が白濁液が逆流して流れ出している叢雲の秘所に轟雷刀の鞘をねじ込んだ。
「ん〜!!」
ほとんど弛緩していた叢雲の身体がその刺激に弓なりになる。
「お、まだまだ元気じゃねぇか」
と言って鞘をねじ込んだ男が叢雲の菊座に己の肉棒を押し込んだ。それとほぼ同じくして叢雲の口を蹂躙していた男の肉棒から喉へ向かって大量の白濁液が発射される。
むせ返った叢雲が咳をすると同時にその口から白濁液が糸を引いて顎を伝って胸へと落ちていく。それを見ながら叢雲はまたも意識を失った。

叢雲は薄暗い小屋の中で眼を覚ました。身体は縛られたままな上に叢雲を陵辱した跡もそのまま残っている。秘所には轟雷刀がねじ込まれたままだ。
しばらく経ってから周囲を見回した叢雲は自分を犯していた男たちがものを言わぬ死体となり、そして紅に染まった世界の中で一人の女性が立っているのを見た。
「もう大丈夫です」
女性の唇がかすかに動くそのままその女性は無言で叢雲の秘所にねじ込まれている轟雷刀を抜き取り、縄を解き、陵辱の跡の残る身体を拭いて自分の羽織っていたコートを着せた。
「それにしても…クレアの将軍がこんなところで何をやってるんです?」
「…私はもうクレアの人間じゃないから」
「確か御剣将軍でしたね。私はレヴァイア王国のファミリア=スティーヌといいます…。よかったら話を聞かせていただけますか?」
「あそこには…もう私の居場所は無いんです…ただそれだけです」
ファミリアの顔を見ながら呟くように叢雲が答える。
「今から何処へ行かれるのですか?」
「どこにも…行く場所なんてありません」
「それなら我々の国に来てもらえませんか?」
叢雲の眼をじっと見ながらファミリアがこの戦乱に自分たちも参戦すると続ける。その間叢雲は無関心なような、それでいて驚いているような複雑な表情を見せる。
「そこであなたにお願いがあります。我々の力になってください」
今度ははっきりと驚きを隠さずにファミリアの顔を見る。
「我々には人手が足りません。あなたの力が必要なのです」
「…別にいいですよ」
ほとんど間を置かずにそう答えて叢雲は立ち上がり、ファミリアと共にレヴァイア王国へと向かって行った。

(2002.10.05)


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