叢雲、料理に目覚める
御剣 叢雲
叢雲は今日も朝食と睨み合っていた。
牛乳とパンはいつもどおり。といってもパンは時々ぶどうが入ってみたりとバリエーションは豊富だ。スープは毎日中身が変わる。しかし最大の問題点であるスープ皿は勿論そのままだった。
「わかめの入ったお味噌汁…」
叢雲はどこか遠くを見るような眼で椀に入った味噌汁を思い浮かべた。
「…そ〜だ、自分で作ればいいんだ」
ようやく妄想の味噌汁ワールド(わかめ篇)から帰ってきた叢雲ははたと気づいたようにそう言った。
昼下がりの厨房からなにやら爆発音が響いた。
扉から黒煙を吐き出している厨房のその煙の中から煤だらけになって叢雲が這い出してくる。
「りょ、料理人さんって…すごい…」
そう言い残して叢雲はぱたりと倒れた。
――数日後――
「そうっ! そこで卵が固まらないうちに塩と胡椒を…ってかけすぎだ!!」
厨房から熱い檄が飛ぶ。その隣にいる叢雲は額から汗を流してフライパンと格闘している。
そのフライパンの上には目玉焼き…と思われるものがあった。
「あ〜…真っ黒…」
表面が胡椒で真っ黒になるほどに胡椒の洗礼を受けた目玉焼きを前に叢雲がそう言った
「う〜む…しかしこの数日でよくここまで成長したものだ…」
何故かちりちりになっている髭の先をなでながら厨房長が感心したようにつぶやく。
「この間の爆発は凄かったからな…料理をしていて爆発など聞いたことが無かった…。それと比べると凄まじい成長振りだ」
「あ、ありがとうございますっ」
「よし、なら明日は玉子焼きに挑戦だ」
「玉子焼き…ですか…?」
「卵を程よくかき混ぜる作業が大変なのだよ…くくっ」
何故か暗い笑みを浮かべる厨房長。どうやらノリのいい性格らしい。
「はいっ! 頑張ります!!」
――さらに数日後――
「叢雲君!! 君はついに刺身をマスターした!! 先生は感激しているっ!!」
「先生ぇ〜!!」
今日もこの二人のおかげで周囲の人々の晩飯が遅れる。
|