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決意
 
 
 御剣 叢雲 叢雲は例のごとく朝食と向き合っていた。
 結局その日も全て食べきることができずに空腹を抱えたままふらふらと出かけるのだった。
 
 叢雲の行き先は決まって近所に住む情報屋の家だった。
 一見温厚な老人ではあるが、実際は私兵談にさまざまな情報を流している敏腕の諜報部員である。勿論彼は叢雲の行動に関しても全て把握していた。
 「お、嬢ちゃんまた来たかの。で、クレアの情報かね?」
 「う〜ん、それも聞きたいけど…」
 「まあ落ち着いて座りなさい…。『巫女を喰らう者』が動き出しおったぞい」
 突然やってきた叢雲に動じることなく椅子に座らせて茶を出す。既に毎日のように通っている叢雲であるが、初めてこの情報屋の存在を聞きつけてやって来た時もこのような対応だった。
 「巫女を喰らう者?」
 「その通りじゃ。このままではまずいのぉ」
 のんきな口調で『巫女を喰らう者』について叢雲に説明をする老人。
 「………」
 「どうしたんじゃ? クレアが心配かの?」
 「い、いえっ、もうクレアとは関係ないから…」
 「自分に嘘をついちゃいかんよ。もしそれが自分への戒めであったとしても嘘はいかん…。嬢ちゃんはクレアが心配なんじゃろ?」
 何も言えずにうつむく叢雲。
 「嬢ちゃんが毎日クレアの情報を真っ先に聞くことや嬢ちゃんの着てる服なんか見てれば誰でもわかることじゃがの」
 「……」
 「嬢ちゃんがしていることが真実なのか、それは誰にもわからん。ただ、嬢ちゃんの思うとることは真実じゃろ?」
 「はい…」
 「それならそれでいいんじゃよ。ここに居たいのならここに居てクレアを心配すればええ」
 「はい、ありがとうございます」
 老人の言うことに最後には明るさを取り戻した叢雲に明るいのが一番ええと老人は言った。
 
 「叢雲ちゃんのご飯だけクレアの料理にして欲しい?」
 「はい、そ〜なんですけど…大丈夫ですか?」
 日課となった料理修行に入る前、叢雲は厨房長に突然たずねた。
 「全然大丈夫だけど、あまり自信ないんだよな…叢雲ちゃんの満足いく味になるかはわからないよ」
 「はい、全然それでいいんでお願いします」
 ぴょこりと頭を下げる叢雲。
 「それにしても最初からそう言うと思ってたんだけど…今まで無理してただろ?」
 「それは…」
 少し叢雲が口ごもる。
 「それは…私が無理してクレアを忘れようとしてたからです…。結局逆効果でしたけど」
 叢雲は少し恥ずかしそうに笑った。
 
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