戦場にて
御剣 叢雲
王都の北東部、そこに陣を構えている叢雲はしつこく付きまとってくる荻生を「ほかの部隊への伝令係」として追い出すことに成功した。
東に行けば帝国の国境警備部隊が待ち構えている。
自分の周りに居る2000人の私兵軍の兵士たちは酒を飲んでいたり早くも緊張していたり寝ていたり素振りをしていたりなどさまざまな時のすごし方をしていた。しかし全員に共通して”もうすぐ自分が死んでしまうかもしれない”という思いは持っているようだった。
「今は…私一人なんだよね…」
クレアに居た時には周りにさまざまな人が居た。しかし今、この部隊を率いているのは叢雲一人である。重圧と寂しさが叢雲の背中に大きくのしかかってきていた。
「…できるのかな…私なんかに…こんな大事なことできるのかな…」
事実、私兵軍は合流していない将が多い。そのことで叢雲は「自分がミスをしたら…」と必要以上に考え込んでしまっているのだった。
「帝国軍、増援が到着したようです」
「え? 増援?」
考え込んでしまっている叢雲に偵察に出ていた兵士が報告に来る。部隊数はこちらとほぼ同数になるかそれ以上になると兵士は告げて叢雲の前から去っていった。
「う〜ん…」
珍しく紙に何かを書いて真剣に作戦のようなものを練り始める叢雲。
ちょうどその時疾風のごとき速さで陣へ荻生が戻ってきたのだが、叢雲の様子を見て物陰からじっと眺め始める。ストーカーのような行為だが彼なりに気を使っているらしい。
「やっぱヤメ!! 小難しいことなんか考えたって分かるわけ無いって」
紙を丸めて放り投げ、叢雲が膝を手のひらで叩いて立ち上がる。
「やっぱり叢雲ちゃんはそう来ないとね」
「う、うわっ!? …ってどっから出てきてんですか」
突如背後から現れた荻生に驚きはしたもののすぐにジト眼でにじり寄る叢雲。
「ん? 叢雲ちゃんどうかしたの?」
「そこ…後ろなんて書いてあるか読んでもらえないかなぁ…」
ふと振り返る荻生だったが、そこに書いてある文字を見ても彼はまったく動じなかった
「ごめんごめん、ここ女子風呂だったか〜」
その夜、荻生は荒縄で縛られて木に吊るされていたという。
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